一斉授業の冒頭10分は、全員が理解できているという前提では設計できません。その現実を認めたとき、「教科書を読んで要点をつかみ、計画を立てる時間」として子どもへ渡すことができます。さらに確認テストの扱いを見直せば、授業の大半を子どもたちの学習時間にすることが可能です。最終的な完成形は「最初5分で学習方法を見通し、中央35分で学習内容を深め、最後5分で学習方法を振り返る」という構造です。けテぶれシートと教科ノートを役割分担させ、星のフィードバックを通じて学びに向かう力の支援と評価をつなげていきます。
「最初の10分」に目をつける
一斉授業を自由進度的な学習へとつなげていくとき、最初に目をつけるべきは冒頭10分の全体説明です。
この10分は「全体の抑え」として機能していますが、正直に見れば、全員が十分に理解できているかどうかで言うと、2割程度しか理解に至っていないのが実情です。これは教師の力量の問題ではなく、学習科学的にも無理のない話です。どれだけ丁寧にわかりやすく説明しても、初見の内容を聞いただけで大多数の子どもが理解するのは難しい。単線型の授業の冒頭説明は、構造的にそういう限界を持っています。
とはいえ、冒頭10分に価値がないかというと、そうではありません。そこで「なんとなく聞いていた」ことが、後の活動の中で「あ、さっき先生が言ってたのはこういうことか」という納得につながる。全体説明は、その後のけテぶれで回収するための布石として機能しているのです。
この認識を持ったまま、次の問いを立てます。「その10分で実現したい効果は何か?」
シンプルに言えば、本時の学習内容について注目すべきポイントを全体で抑えることです。そしてそのポイントは、ほぼ教科書に載っています。本時の狙い、問いかけ、まとめ、その先の発展問題まで、教科書には丁寧に記されている。だとすれば、教科書を子どもたち自身が読めさえすれば、全体説明の10分は不要になる可能性があります。
「ざっくり読んで、計画を立てる」に置き換える
ここで大切なのは、「完全に理解できること」を求めないという視点です。
最初から全部わかる必要はない。ざっくり頭に入ればそれで十分で、残りは実際にやってみる中で回収していく。最初の10分で理解できなかったとしても、けテぶれを回す中で「さっきの説明はこういうことだったんだ」と納得していく接続が生まれます。教師の説明に代わって子どもが教科書を読む場合も、同じことが言えます。読めてなくて当然、ざっくり理解するだけでいい、という前提でハードルを下げてこそ、この時間を渡すことができます。
冒頭10分の役割は、「教科書を読んでざっくり理解し、本時に大切にすべき要点をノートにまとめ、この後のけテぶれの計画を立てる時間」に置き換えられます。丁寧にやるならQNKSを使って、読んだ内容の中で大切なポイントを問い、抜き出し、組み立て、整理していく時間にするのもよいでしょう。その10分は「全体の抑え」から「計画立案の時間」へとシフトします。学習の入口を教師から子どもへ渡す、最初の一手です。
計画が立った子からけテぶれタイムへ
計画が立てられたかどうかを確認し、OKが出た子からけテぶれタイムに入っていく。この「計画チェックから個別スタート」の設計が、複線型の授業への入口になります。

5分でできる子もいれば、10分かかる子もいる。その差が授業の中に自然と生まれるのは、一見すると管理が難しそうに見えますが、むしろ現実の子どもたちの理解の差を素直に認めた設計です。個別最適な学びの入口は、この「計画が立った子から動き出す」という構造にあります。
計画の内容はシンプルで構いません。「本時でやるべきことが何か」「どんな方法で取り組むか」が言語化されていれば十分です。その計画が立てられた段階で、子どもたちは自分の学びを動かせる状態になっています。けテぶれの「け(計画)→テ(テスト)→ぶ(分析)→れ(練習)」のサイクルが、ここから本格的に回り始めます。
最初の10分で教科書を読んで計画を立て、そこからテスト・分析・練習が残りの30〜35分になる。合計で35〜40分が子どもたちに渡ります。
確認テストを手放す
次の狙い目は確認テストです。
確認テストの本来の役割は、子どもたちが自分の現在地を把握することにあります。毎時間の終末に固定するのではなく、数日後にまとめて実施する小テストで代替することも可能です。「次の小テストで従前の内容が取れることを目指して、今日の学習を進めてください」と伝えれば、その日の授業の最後に確認テストを置く必要はなくなります。現在地の把握は、授業の外に仕組みとして設けておけばよい。
こうすることで、40分を子どもたちの学習時間にし、最後の5分だけを振り返りにする設計が成立します。
この時点で授業の骨格は大きく変わっています。教師の説明で始まり、問題演習をして、確認テストで終わるという単線型の授業から、子どもたちが自分の学習を進め、最後に自分で振り返る複線型の授業へ。学習のコントローラーが、確実に子どもたちの手へと移っていきます。
完成形:5分35分5分の構造
ここから、さらに構造を整えていきます。
最初の5分と最後の5分に、それぞれ「学習方法の計画」と「学習方法の振り返り」を置く。そして中央の35分に、学習内容としてのけテぶれを回す。これが5分35分5分の授業構造です。
この設計には、自己調整学習の「予見・遂行・省察」という三相がそのまま組み込まれています。最初5分は予見、中央35分は遂行、最後5分は省察。子どもたちは毎時間このサイクルを自分でまわすことになります。
5分35分5分は単なる時程の工夫ではなく、学習方法と学習内容を明確に分け、自己調整学習と学習指導要領の3観点をつなぐ構造的な設計です。
中央35分で知識・技能と思考・判断・表現を育て、最初と最後の各5分で学びに向かう力を育む。この授業設計は学習指導要領3観点のすべてに整合します。観察事例は算数ですが、教科書を読み、要点をつかみ、計画を立て、実践し、振り返るという流れは、授業設計の原理として教科を問わず適用できます。学び方の見方・考え方を育てることを目的とした構造は、どの教科にも共通するものだからです。
けテぶれシートと教科ノートの役割分担
学習方法と学習内容を分けることで、使うノートも自然に分かれていきます。
最初5分と最後5分の「学習方法についての記述と振り返り」はけテぶれシートに書く。中央35分の「学習内容を深めるためのけテぶれ」は教科のノートを使う。この役割分担によって、学習空間の中が整理整頓されていきます。

けテぶれシートは、子どもたちが「今日どんな学び方をしようとしているか」を見通し、「実際にどんな学び方ができたか」を振り返るための場所です。教科の内容を書く場ではなく、学び方そのものを記録し、省察する専用の場として機能します。
この分離によって、「学習内容の理解」と「学び方の自覚」が別々に育まれていく土台が整います。子どもたちは毎時間、自分の学習方法を意識しながら授業を進めることになる。学び方の見方・考え方は、特別な単元や場面だけで育つものではなく、この日常的な構造の中で少しずつ積み上がっていきます。
星のフィードバックで、学びに向かう力をつなげる
けテぶれシートに書かれた学習方法の見通しと振り返りに、教師が星でフィードバックをしていきます。
この星のフィードバックは、学びに向かう力の「支援」と「評価」を一体のものとして機能させます。どんな学び方をしようとしているか、実際にどう学んだかを、教師がひとりひとりのシートで確認し、認め、コメントを添える。けテぶれやQNKSという学び方を子どもたちに指導し、その学び方の振り返りを星でフィードバックしていくことで、学びに向かう力の指導と評価が日常の授業の中に自然に組み込まれていきます。
けテぶれシートで学習方法を指導し、教科ノートで学習内容を深める。そのサイクルが毎時間積み重なれば、かなり構造的に子どもたちに学びを任せていく授業が成立します。
「任せる」とは、丸投げではありません。教科書を読む時間、計画の確認、けテぶれタイム、振り返り、フィードバックという制約のある構造を整えた上で、子どもが自分の学びを動かせる時間を増やすことです。信じて、任せて、認めるという関係の中で、学習のコントローラーは確実に子どもたちの手へと移っていきます。
自律した学習者へ向かう授業設計
5分35分5分の構造が安定してくると、子どもたちは毎時間、教科書を開いて計画を立て、けテぶれを回し、振り返るという流れを自分でまわせるようになっていきます。教師の説明で授業が始まることが当たり前だった教室が、子どもたちが自分の学習を積み上げる空間へと変わっていく。
毎時間この構造が繰り返されるとき、それはもう単元内自由進度の入口です。自律した学習者は、特別な場面だけで育つものではありません。毎時間の授業の中に、自分で学ぶための構造が整えられていることで、少しずつ立ち上がっていきます。
一歩目は、最初の10分を子どもへ渡すことから始まります。