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自由な学習空間で点数が下がった「真面目な子」への向き合い方

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一斉指導では高得点をキープしていた子が、けテぶれのような自律的な学習空間に移行した途端に点数を落とすことがあります。この状況への対応策と、教師が持つべき「揺らがない哲学」について解説します。「やらされる力」と「自分でやる力」は別物であり、その差を正面から受け止めることがスタートラインです。

今の教育が生み出している二極の現実

散歩中に、以前から知り合いだった現場の先生と久しぶりに話す機会がありました。中学時代に部活でけテぶれを実践し、大きな成果を上げていた先生です。今年から地域の公立高校に異動し、いわゆる偏差値の低い学校で教えているといいます。

その先生から聞いた現実は、非常に重いものでした。

「生徒たちが人生を諦めてしまっている」

16歳・17歳・18歳の子どもたちが、自分たちを「社会の底辺」「ゴミ」と言う。気力がなく、ただしょうがなく生きているような状態で毎日を過ごしている——という現状があるというのです。

これは、今の教育が積み上げてきた結果の一つです。

片方の極:諦めてしまった子どもたち

「主体的な学び」が叫ばれる現代においても、その恩恵を受けられるのは「すでに学習のエンジンが回っている子」だけです。エンジンがまだかかっていない子たちには、自由度を上げるだけでは届かない。

なぜある子にはエンジンがかかっていて、ある子にはかかっていないのか。それはその子の生育歴を見れば分かります。親が示してきた環境・言葉がけ・態度の積み重ねによって、子どもは「自分で動くためのエンジン」を受け取ります。そうした過程を経ずに育った子に対して、「やる気がないからダメ」と切り捨てるのは指導ではありません。エンジンに火をつけることこそが、指導者の仕事です。

もう片方の極:回されすぎた子どもたち

都市部を中心に、塾・中学受験が当たり前という環境で育つ子どもたちもいます。この子たちは自分でエンジンを回せる力があるのに、外側からずっと回し続けられてきた。目標である受験が終わった瞬間に燃え尽きてしまい、自分にはエンジンがついていること自体を忘れさせられてしまうケースが少なくありません。

公教育とは、この全員を担い、「人格の完成」に向けて育てていくものです。両端に現れているこの二つのネガティブな現実を重く受け止めた上で、私たちは日々の教育を問い直す必要があります。

「真面目な子」が自由な空間で失速するのはなぜか

ある先生からこんな質問が届きました。

自覚→自律→協力→協働、自分でやる力が育つ4段階図
自覚→自律→協力→協働、自分でやる力が育つ4段階図

> 一斉授業のように与えられたことには真面目にこなし、常に80〜100点以上をキープしていた子が、自由な場においてやらない方向に流れ、極端に点数が下がった場合、テスト後にどう関わりどうアプローチしますか?

これは、けテぶれを導入した多くの先生が直面する、非常にリアルな問いです。

けテぶれとは「計画・テスト・分析・練習」の頭文字を取った自律学習のフレームワークです。子ども自身が学習の設計と改善を担うこの方法は、すでにエンジンが回っている子には大きな力を発揮します。しかし、「やらされること」で成立していた子には、急に荷が重くなることもあります。

まず「しょうがない」と受け止めることから始める

この状況への最初の認識は、「しょうがない」です。

これはあきらめではありません。やらされる環境では高得点が取れた子が、自分でやらなければならない環境ではこの点数しか取れないなら、それがその子の「今の本当の姿」です。そこからしか育ちません。

この認識を持てるかどうかが、その後の関わりの質を大きく変えます。不安になって早急に介入することも、放置することも、どちらも育てることにはなりません。

本人と率直に話す

次にやるべきことは、その子と率直に話すことです。

「先生にやらされる環境では点数が取れていたかもしれないけれど、この空間では点数が下がったよね。なぜだと思う?」

こう問いかけた時、子どもは大きく二つに分かれます。

  • サボった自分を受け取れる子:素直に状況を認められる子。この子とは率直に相談を進められます。
  • 受け取れない子:「先生が授業してくれないから下がった」と外側に原因を求める子。もう一段の工夫が必要です。

「やらされる環境」に戻る選択肢を提示する

外側に原因を求める子に対して、一つの選択肢を提示することがあります。

「やらされて、先生が指定した課題をひたすらやる世界に戻ってもいいよ。今日はここからここまで必ずやりなさいと全部指示を出す。丸付けも手伝う。どうする?」

この提案の意図は、単純に従わせることではありません。「どうする?」と問い返すことで、その子自身に選択を迫るのです。自分で選ぶという経験が、自律への小さな一歩になります。

「個人の問題」か「全体の問題」か、まず見極める

ここで重要な判断があります。この現象がクラス全体に広がっているのか、特定の数人だけなのかという見極めです。

まず動く子の熱を上げて空間全体へ波及させる指導戦略
まず動く子の熱を上げて空間全体へ波及させる指導戦略

クラス全体で点数が落ちている場合

クラスの多くの子が自由度の中でうまく動けていないなら、それは指導側がチューニングすべき問題です。

大学院から戻って久しぶりに3年生の担任になった際に、序盤から自由度を上げたところぐちゃぐちゃになってしまった経験があります。学級集団の状態を見ながら「いつ何をどの程度任せるか」を段階的に調整していくことは、教師の重要な専門性です。こちら側で判断できる場合は、保護者から声が上がる前に次の単元からのチューニングに移ります。

数人だけ困っている場合

一方、多くの子がうまく動けていて、困っているのが数人だけなら話は違います。その数人のために、クラス全員を一斉指導に戻すことは合理的ではありません。

保護者から声が上がった場合でも、この認識はしっかり伝える必要があります。

「クラス全体は機能しています。お子さんのニーズを満たすために、全員の学習方法を変えることは難しい」

そのかわりに、その子に対する個別の対応を丁寧に相談します。必要な指示量がある子に対しては、その子専用の支援を組んでいくことは十分可能です。

哲学と個別チューニングの両輪

ここに、教師として持つべき二つの軸があります。

二つの同心円が連動する「人格の完成」——動的平衡としての教育の到達点
二つの同心円が連動する「人格の完成」——動的平衡としての教育の到達点

第一の軸:揺らがない哲学

この学習空間が何を目指しているのか。教育基本法第一条が示す「人格の完成」に向け、子ども自身が自分の心と体を目的に向かって動かせるようになることです。この哲学は、どの子に対しても変わりません。子どもの言う通りに何でも従うのは教育ではなく、目的と目標が示され、そこに向かうことが前提です。

第二の軸:個別のチューニング

しかし、その哲学に向かうための歩み方は、子どもによって全く異なります。背中を押してほしい必要性が高い子には、それだけ多く支援する。これは方針のブレではなく、全員に同じ目的地を目指すための個別対応です。

この二軸を両輪として持つことで、教師は子どもや保護者の声に揺さぶられながらも、根本の方向性を見失わずにいられます。

安心感が信頼の土台

保護者や子どもが不安になるのは、「先生の指導スタイルにうちの子が合わせるしかない」という印象を持った時です。

そうではなく、徹底的にチューニングがなされるという安心感を実感してもらうこと。「あなたの今の必要性に応じて、一緒に考えます」という姿勢が、信頼関係の根本です。

ただし、これは要求に100%迎合することとは違います。目的と目標は示され、そこに向かうことは前提。その中でどうやって進むかを一緒に考えるのが、教育です。

まとめ

「一斉指導では伸びていたのに、自由な空間で落ちた子」への対応は、次のように整理できます。

1. 現実をまず受け入れる:それが今のその子の力。そこからしか育てられない 2. 本人と率直に話す:サボった自分を受け取れるかを確認する 3. 選択肢を提示する:必要なら以前の環境に戻してよいと伝え、本人に選ばせる 4. 全体か個別かを見極める:クラス全体の問題か数人の問題かで対応が変わる 5. 哲学と個別チューニングの両輪で動く:目的は揺らさず、手段は一緒に調整する

「主体的な学び」は、すでに主体性のある子だけのものではありません。エンジンがまだかかっていない子のエンジンに火をつけること——それが教師の仕事です。

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