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「自由に学びなさい」が通用しない理由——けテぶれ・QNKS・心マトリクスで自律学習を育てる

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自由進度学習や週末の自主勉強を導入しようとするとき、多くの教師が同じ壁にぶつかります。自由に学ばせるだけでは、できる子はどんどん先へ進み、何をすればよいか分からない子はその場で止まったままになるからです。この差を縮めるには、「学び方そのもの」を子どもに渡す必要があります。けテぶれは試行のサイクルを、QNKSは知る・分かるための思考プロセスを、心マトリクスは自律学習で必ず揺れる感情の見取り方を、それぞれ子ども自身が使える形で手渡すための道具です。本記事では、名古屋の学習会で語られた実践の全体像をもとに、自律学習をどう育てるかを具体的に示します。

「自由に学ばせる」だけでは差が広がる

自由進度学習を導入したとき、あるいは「週末の自主勉強ノートに自由にやってきてね、来週提出ね」と言ったとき、教室の中では何が起きるでしょうか。

自由に勉強しなさいというのは、ある子にとっては何をしていいかまったく分からないくらい高いハードルです。その一方で、もう一方の子は余裕でポンポンと進んでいきます。この差が全く埋まらないまま1年間が続き、できる子はできる、できない子はできないの世界がずっと展開されてしまいます。カラフルなノートを毎週出してくる子に先生が「いいね」とコメントし続けても、何をしたらいいか分からない子は一歩も前に進めないままです。

この状況を変えるためには、「勉強する」という行為の中身をもう少し具体的に分解して、子どもに渡してあげる必要があります。できる子は感覚でポンと登れてしまうけれど、その子は感覚でやっていることを言語化されていないまま実行しているだけです。その階段を言語化して教えてあげることが、学び方を学ぶ指導の出発点です。

学びのコントローラー
学びのコントローラー

「勉強する」を分解する——知る・試す・できる・語る・使う

子どもが学んでいく道筋には、いくつかの段階があります。まず何かを知ります。知ったら次に試してみます。試すことでできるかできないかが分かれてきて、繰り返すうちにできるようになります。できたら終わりかというと、そうではなく、できたことを語れる(説明できる)かどうかという段階があります。さらにその知識を日常の別の場面で使うことができてはじめて、本当に身についたと言えます。

一斉授業とは、この階段のうち「知る」「納得する」という部分を先生が一緒にやってあげている時間です。先生が発問して、子どもたちから情報を引き出し、黒板に板書して整理してまとめる——これがまさに「知る・分かる」プロセスを集団でやっている姿です。

問題は、この段階が終わったあとです。「じゃあ試してみて、できるようになってね」と渡したとき、子どもは何をどうすればよいのかが分からないままになってしまいます。知るための方法と、試してできるようになるための方法を、子ども自身が使えるかたちで渡すこと——それが学びのコントローラーを渡すということです。

学びのコントローラーには、試行のサイクルとしてのけテぶれと、知る・分かるための思考プロセスとしてのQNKSの両方が含まれています。考えてやってみて、考えてやってみる——このやってみる⇆考えるの往還を子ども自身が意識的に回せるようになることが、自律学習の核心です。

けテぶれとQNKS——学び方を手渡す2本柱

けテぶれは、「計画・テスト・分析・練習」という合言葉で回す学習の方法です。知った内容の中から何ができて何ができていないかをテストで調べ、できたこと・できていないことを分析し、だから何を練習すべきかが分かる——このサイクルを意識的に回すことが、できるようになるための道筋です。

たとえば逆上がりの練習でも、ぐるぐると同じことを繰り返すだけでなく、一回やってみてお尻の位置はどうか・引き付けはどうか・足の上がり方はどうかと分けて分析できるはずです。先生は実は、子どもたちがぐるぐる回っている中で「引き付けなさい」「お尻をもっと上げて」と言い続けることで、この分析を代行してきました。その代行しているプロセスに名前をつけて、子ども自身が使えるようにしたものがけテぶれです。

QNKSは、知る・分かるための思考プロセスです。Q(問い)を立てて、N(情報を文章から抜き出す)、K(抜き出した情報を組み立てる)、S(整理する)というステップです。これも実は、一斉授業で先生がやっていることと同じです。先生が質問を出して、子どもたちから意見を抜き出し、黒板に板書して組み立て、最後に「つまりこういうことですね」と整理する——このプロセスの種明かしをして、子ども自身が自分で使えるように渡していくのがQNKSです。先生がやってくれている一斉授業の流れを自分で落とし込んで、自分で問いを見つけて情報を教科書の中から抜き出して組み立てられるようになること——これが学び方を学ぶということです。

けテぶれ×QNKS
けテぶれ×QNKS

一点大切なことがあります。けテぶれだけで全教科の自由な学びがすぐに成立するわけではありません。けテぶれは「試してできるようになる」側を担い、QNKSは「知って分かる」側を担います。たとえば漢字の学習では「読み方を知る」という段階がとてもシンプルなので、その後すぐにけテぶれで試すことができます。しかし算数の文章問題であれば、教科書を読んで内容を理解する段階がかなり難しく、ここはまだ全体指導でQNKS的に一緒に読み解いていく必要があります。どこまで任せられて、どこから一緒にやるのか——この判断をするためにも、全体の構造を見通しておくことが大切です。

まず漢字のけテぶれから始める

実践の入り口として、漢字の学習から始めることを強くすすめています。理由はシンプルで、学習内容がとてもシンプルだからです。読み方を知って、意味を理解して、たくさん書いて覚え、漢字の小テストで100点が取れる——このサイクルは、内容理解の深さや体の感覚まで問わなくてよいので、すぐにけテぶれを回すことができます。

基本的なノートの形は、計画・テスト・分析・練習の4段階を1ページに収めるかたちです。最初の導入では、「この通り移してきて、明日持ってきたらいいから」と言ってあげるくらいが丁寧です。何度説明しても、子どもは家に帰ればやり方を忘れます。「けテぶれって何やったっけ」となって、保護者から電話が来る——これを避けるために、丸写しのお手本を作ってあげることが最初の一歩です。

丸写しで、丸付けの間違いも気づかずに提出してきても、それでOKです。「一回けテぶれ成功」にしてあげてください。ノートの書き方が変わったな、というくらいの認識で子どもがスタートしていい時期があります。入り口をあまりに高くしてしまうと、最初の一歩で「けテぶれ失敗」と感じさせてしまい、その後の実践が難しくなります。

計画欄には、今日やることに加えて、気持ちを書くことをすすめています。やる気があるのかないのか、眠いけど頑張るのか——こうした自分の状態を言葉にすることが、学習を始める前に自分の現在地を捉えるきっかけになります。先生の言った通りに書かなければ怒られるという意識を、少しずつ解きほぐしていく。自分の言葉が一つ書けるという安心感が、だんだん「自分で考えたことを書いていいんだ」という感覚につながっていきます。

フィードバックは軽く、でも確かに

毎日30〜40人のノートにコメントを書くのは現実的ではありません。それでも、花丸だけ押して返してしまうと、子どもは何が良かったのかが分かりません。自分のやり方が合っているのかどうかの不安が解消されないままになります。自由な学びの空間では、自分の方法と周りの方法が違うわけですから、「自分のやり方は合っているのか」という不安がとても大きいのです。

おすすめの方法は、「星を出す」ことです。ノートを見て、学習力が表れている箇所にアンダーラインを引いてそこに星を押す。その星の判断基準が学習力のABC+——やる気のコントロール(A)、得意・苦手を見つける力(B)、方法を工夫する力(C)、他者を頼む力(+)です。ABCのどれかに当たる何かいいな、と思ったら脊髄反射で星をポンポンと出していく。星はその子の学習力を可視化するものです。点数という形では見えにくかった「頑張り」が積み上がっていく様子が見えることが大切で、シールを連動させるとさらに効果的です。シールが溜まっていくことは、学習力が蓄積されていることの目に見える証拠になります。

細かく「これがAでこれがBだから星を何個」と判定しようとすればするほど、判断基準があいまいになり、子どもから「同じことを書いているのになぜ差がつくのか」という声が出てきます。厳密にしすぎると持続不能になります。ノリとテンションで続けられることの方がはるかに大切です。

4月の最初の時期は、とにかく盛り上げ切ることが重要です。ぬるっと始めるとそのまま熱が上がらないまま失速します。最初の山頂が高いほど、6月にだれてきたときの落ち幅が小さくなります。

大分析——点数の前に、学び方を振り返る

週に一度の漢字の小テストは、毎週同じ曜日・同じ時間帯に固定することをすすめています。こうすることで、子どもが自然に「来週木曜日にテストがある」と意識して、前日にどれだけやっておけばいいかを自分で考えられるようになります。いつテストがあるか分からない状態では、大計画が立てられないからです。

テスト後の大分析では、点数そのものよりも、自分の学び方が今回の結果にどうつながったかを考えさせます。合格点が取れていれば「あなたの学習はあなたにとって良い学習になっていた」、取れていなければ「あなたの学習方法は何か変える必要がある」——この単純な問いを自分で考えることが、大分析のねらいです。分析したことを受けて次週どうするかを大計画として書き、また試していく——このサイクルを螺旋的に積み重ねることで、子どもの学習は少しずつ上がっていきます。

ここで大切にしているのが、語りとの連動です。テストを返却したとき、子どもたちの感情は大きく揺れます。やったとか、悔しいとか、失敗したとか。この感情が動いているタイミングに語ると、内容が深く入ります。なぜ今この学習をしているのかを、感情が動いている瞬間に伝えることが、語りの力です。

そのために、テストをすぐに一人ひとりに返さず、全員の丸付けが終わったところで一気に返し、教室全体の感情が同時に動く瞬間を意図的に作ることもあります。その瞬間に語りをぶつけると、「なぜけテぶれをやっているのか」という意味が子どもたちの中にしっかりと落ちていきます。なんでけテぶれをやらせているのかということを、こちらがどこまで深く広く子どもたちに語れるか——それがこの実践の鍵だと言えます。

大分析で感情を言葉にしてから、次の週の大計画へとつなげる。ここでちゃんと加熱させてあげるから、次の学習がちゃんと熱を持って螺旋的に上がっていくのです。

振り返りの観点は、良かったこと(+)、悪かったこと(-)、次はどうするか(→)という3+3観点のうち、まずプラス・マイナス・矢印の3つで十分です。これは漢字のけテぶれに限らず、掃除の振り返りでも学級活動の振り返りでも同じ言葉で使えます。子どもが「あの3つ」で自分の振り返りを自分で取り出せるようになると、振り返る習慣そのものが根付いていきます。

心マトリクス——自律学習の中で必ず揺れる感情を見取る

子どもたちが自由に学ぶ空間に入ったとき、必ず問題になることがあります。やる気があるとき・ないとき、集中できているとき・流されてしまうとき、誰かとのやりとりの中でイライラしてしまうとき——こうした感情の波に対して、子どもが自分でどこにいるかを認識し、次をどう選ぶかを考えられるための共通言語が必要です。それが心マトリクスです。

心マトリクス
心マトリクス

縦軸は「考えて動く」軸です。自分で一生懸命に努力して学習が進んでいる状態を月ゾーンと呼びます。けテぶれやQNKSをぐるぐる回しながら一人で集中して頑張っている状態で、個別最適な学びと対応しています。横軸は「人に優しく」の軸です。信じて・思いやって・人も自分もニコニコという状態が太陽ゾーンで、協働的な学びがここに対応しています。この月と太陽が行ったり来たりできているとき、子どもの学習はキラキラ星ゾーンになっています。

ここで大切なのは、ゾーンの善悪で語らないことです。フワフワしている状態は学習こそ進まないけれど、パワーが回復している状態でもあります。イライラしている状態は、エネルギーがある証拠でもあります。各ゾーンに良い面も悪い面もある——この両面を子どもに語りながら、「今自分はどこにいて、次どこに行きたいか」を考えるためのツールとして使っていきます。

心マトリクスの言葉が教室に定着してくると、「今日は月に行けた」「太陽の中に月を混ぜていいバランスだった」といった自己省察の言葉が子どもから自然に出てくるようになります。そうなると教師の小言が減ります。「今どこ?」と問いかけるだけで、子どもが自分で分析を始めて次の行動を選ぶようになっていくからです。

心マトリクスは、生活のけテぶれとも深くつながっています。朝に今日の過ごし方の計画を立て、午前中の生活を振り返り、午後の学習につなげるというリズムの中で、心マトリクスの言葉で自分の状態を見取っていく。この往還が積み重なっていくと、子どもは学習方法だけでなく、自分の感情や関係性を見ながら生活することができるようになっていきます。

教師の役割を「映画版」に変えていく

ドラえもんで考えるとイメージしやすいかもしれません。のび太くんはいつもフワフワした状態にいて、ジャイアンはイライラゾーンにいます。ドラえもんが秘密道具で全部解決してくれるから、みんないつまでも同じ位置にいる——50年以上同じ物語が続いているのは、そういう構造だからです。

教師も同じです。子どものすべてのトラブルをすぐに解決してしまうと、子どもは自分で動く必要がなくなります。先生がいなくなっても動ける道具をちゃんと渡すこと、そしてその道具の使い方をたくさん練習させること——これが、いわば映画版への移行です。映画になるとのび太くんは考えて動き始めます。ドラえもんがいなくなっても、なぜかタケコプターだけは持っている。いなくなった時に使える道具は、ちゃんと渡されているのです。

けテぶれとQNKSはその道具です。子どもが自分で現在地を見て、学び方を選び直せるだけの経験と言葉を積み上げること——そのプロセスに一年間伴走していくのが、この実践の全体像です。先生がいなくなっても君たちが動ける道具は渡します、だからその練習をいっぱいしましょう——この姿勢が、信じて・任せて・認めるということにつながっていきます。

まとめ——学び方を渡すことで「自由」が成立する

「自由に学びなさい」が通じる子どもは、実は無意識のうちに学び方を知っている子どもです。そうではない子に同じ言葉をかけても、何もできないまま時間が過ぎていくだけです。

自由な学びを本当の意味で成立させるためには、まず学び方を手渡す必要があります。けテぶれで試行のサイクルを、QNKSで思考のプロセスを、心マトリクスで心の状態を見取る言葉を——これらを子どもが使えるようになることで、教師が「任せられる空間」が少しずつ広がっていきます。

一気に全部やる必要はありません。まずは漢字のけテぶれから。丸写しで一周できたことをまず成功として扱うところから。子どもたちが「ノートの書き方が変わったな」くらいの感覚でスタートするところから、一年間かけてじっくり積み上げていく——その先に、子どもが自分で学び続ける姿があります。

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