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主体性は「現在地」を見えるようにするところから始まる

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子どもの主体性を引き出したい。しかし、自由にさせると「ふわふわした学び」になってしまう——そんな悩みを持つ教師に向けて、葛原先生がコメント返しの形で語った実践知をまとめました。中心にあるのは「現在地の把握」という一点です。大計画シート・心マトリクス・けテぶれマップはすべて、子どもが自分の今いる場所を見えるようにするための手立て。自由進度はその土台の上に乗るものであり、放任とは根本的に異なります。教師は個別対応に追われるのではなく、全体へ短く何度も情報を開示し、子どもが自己判断できる材料を積み上げていくことが求められます。

「ふわふわ」の原因は、現在地が見えていないことにある

自分のクラスではどうしても「ふわふわした学び」になってしまう、という声がよく届きます。葛原先生はその原因を、現在位置の把握ができていないことに求めます。

> 地に足がつく学びイコール自分の状態をしっかり分かった上でその半歩先一歩先に学び出そうとするような学び

「地」とは場所のことではなく、子ども自身の現在地です。そこに立てていない状態で次の一歩を踏み出そうとするから、足元が定まらない。それが「地に足のつかない学び」の正体です。

大計画シート・心マトリクス・けテぶれマップは、この現在地を見えるようにするための手立てとして設計されています。テストの点もその一つです。「今のあなたはどんな状態なのか」——それを踏まえてはじめて、現在位置からの一歩が踏み出せると葛原先生は言います。

学びのコントローラー
学びのコントローラー

この「現在地把握→一歩前進」という構造は、けテぶれでも自由進度でも、あるいは学級経営でも、一貫して通底するものです。どの場面で子どもが止まっているとしたら、まず「現在地が見えているか」を問い直してみてください。

自由進度で「ふわふわ」を防ぐ——縦横の視野と最低限の明示

自由進度学習を取り入れると、「安易なやりたいだけに流れてしまう」という悩みが生まれます。葛原先生は、その原因を視野の狭さとして整理します。

> 安易なやりたいやるべきっていうのは結局視野が狭いんですよ

視野には「縦」と「横」があります。縦の視野は時間軸。1時間の中での時間管理から、1週間・1ヶ月・1学期といったスパンまで、自分の学習を時間の流れの中に置いて見る力です。横の視野は、やるべきこと・他者の学び・学習の場所——これらを見渡す力です。

葛原学級では、1ヶ月分の予定表をExcelで常に画面に表示し、子どもがいつでも数ヶ月先の予定を見通せるようにしていました。各教科のやるべきことリストも並べて示し、「これらがこの期間のうちに全部終わっていることが、今あるやるべきことだ」と伝えます。縦の視野(期限)と横の視野(やるべきこと)を同時に見渡せる環境を丁寧に作っているのです。

自由進度が成立するための前提を、葛原先生はこう言い切ります。

> 本当に目的目標に至るならば至るならば手段は自由

目的と目標が何かが見えていること、やるべきことがリスト化されていること、いつまでにという期限が示されていること、最低限の判断基準が明示されていること——これらが揃ってはじめて、手段の自由が意味を持ちます。やるべきことも期限も見えないまま「好きにやっていい」では、子どもは選択の根拠を持てません。「自由にしていいよ」と言う前に、教師がどれだけの環境を整えているかが問われます。

大計画シート
大計画シート

大計画シートは、「何がどこまで進んでいるか」を子ども自身がチェックできるようにするツールです。内容が複雑になってきたタイミングで一覧表として配り、今の自分の状況を自分で把握できる状態を作る。これが自由の前提として機能します。状況に応じて丸ばつをつけ、現在地を確かめながら次を選べるようにする——その仕組みがあって初めて、子どもは地に足のついた選択ができるようになります。

「先生先生」を減らす——全体への情報開示という関わり方

自由進度の場が機能しないとき、教師は個別対応に追われ、全体への関わりが後回しになりがちです。すると子どもたちは次々と確認に来る。この悪循環を断つ鍵は、先生に確認しなくても済むように、全体へ何度も短く情報を開示することです。

> 先生先生と言われることがなくてもいいぐらいの情報開示というか情報提供というものを全体にしていく

子どもが「先生、これどうすればいいですか?」と確認に来るとき、それはその子に情報が届いていないサインです。その場で個別に答えるだけでなく、同じ疑問を持つ子が他にもいると判断して、全体に向けて一言開示する。これを繰り返すことで、子どもが自己判断できる材料が増えていきます。

心マトリクスも、この文脈で機能します。今から友達と学ぶのか一人で学ぶのか——こういった判断を子ども自身がマトリクスを見ながら選べるようにする。自己判断できる素材を渡し続けることで、「先生先生ゾーン」は少しずつ縮まっていきます。

子どもが確認に来た内容を、葛原先生はその場で分析します。「今この子に足りていない情報は何か」を洞察し、個別に返しながらも同時に全体へ開示する。「これが分かれば自分で判断できるから、ここは先生に聞きに来なくていいよ」と全体に伝えていく——この積み重ねが、自己判断できる子どもを育てます。

フィードバックは授業の途中で起こす

自由に学ぶ場では、振り返りが「今日もだらだらしてしまった」という後悔で終わりがちです。問題は、気づくのが授業の末尾であることです。葛原先生は、メタ認知が授業の途中で働くような設計を紹介しています。

前半15分学習、真ん中5分分析タイム、後半15分学習、最後5分振り返り——このリズムを作ることで、35分ひとまとまりで流してしまうより、はるかに早く「今ちょっとまずいかも」という気づきが生まれます。一時間一時間が失敗体験で積み重なっていくのを防ぎ、途中修正を日常的にできるようにする設計です。

> 子どもたちの成功と失敗を見取り大量にフィードバックできるようにすることが大切

教師の役割は、子どもの動きを見取り、気づきをその場でどんどん返すことです。一人ひとりに丁寧に、ではなく、大量のフィードバックを日常的に循環させることで、子どもの自己修正の感覚が育っていきます。

けテぶれマップ
けテぶれマップ

けテぶれマップは、「今の自分はどこにいるか」「次にどこへ向かうか」を可視化するためのツールです。現在地を見えるようにしながらフィードバックを循環させていく——この二つが組み合わさることで、子どもの自己調整が機能し始めます。

総合の時間を「学び方探究」に——仮説と検証のサイクルへ

「総合でも探究的な学びをしたいが、年度当初に決まっているテーマがあって動きにくい」という声があります。葛原先生は、総合で大切なのは仮説を立て、検証し、また新たな課題を見つけていく往還だと言います。

> やってみると考えるこの往還こそに探究的思考の最も栄養分がある

外側の社会課題に向かって調べてまとめる形の探究は、検証のフェーズがなかなか回りにくい構造を持っています。情報を集めて新聞にして発表して終わり——これでは探究的思考の栄養分が少ない。体験して終わり、経験して終わりという形も同様です。

一方、自己探究学び方探究をテーマに設定すると、仮説と検証のサイクルを回しやすくなります。「自分のより良い学び方を探検する」というテーマなら、毎日の学習そのものが実験の場になります。けテぶれ交流会や大分析の時間も、総合の枠の中に自然と収まります。

さらに、学び方探究として総合を位置づけると、教室のさまざまな取り組みが一本の軸でつながります。「なぜ宿題でもけテぶれをするのか、なぜ自由進度にするのか」——その問いへの答えが「自分の学び方を探究するために、自分で学んでみなければならないから」になる。学習スタイルの選択と探究活動がつながることで、子どもの納得が深まります。

来年度の提案として、「○年生の総合の時間を学び方探究として設定しませんか」と学年で提案するのは、十分に現実的な切り口です。

困り感の強い子へ——まずバランスポイントを探す

授業に参加できず廊下にいる、教室に入っても他の子の学習を邪魔してしまう——そういった子への対応は、多くの教師が悩むところです。

葛原先生は、こうした子に対して学習参加を急がせるより、まず誰ともぶつからず平和に一日を過ごせる「バランスポイント」を探ることを優先すると言います。

> その子が本当にただただ平和に一日過ごせるっていうことを実現するためにはどんな要素を揃えていったらいいのかな

邪魔したいというエネルギーは、本来の願いからではなく、心身のバランスが崩れているときのカウンターパンチとして出てくることが多い。その子がカウンターを打ちたくなるのは、自分のやりたいことが邪魔されているからです。邪魔するとやめてと言われる、やめてと言われると自分がまた邪魔される——という連鎖が続いている状態です。

まず体から力が抜けて、教室という場に安心してなじめるようになることが先です。タブレットで一日ゲームをする時間、図書室で静かに本を読む時間、絵を描く時間——その子のやりたさが誰かのやりたさを邪魔しない範囲で実現できる環境を、ありとあらゆる角度から探ります。

> どの子も現在地というものをまず安心して踏むことができるってことからしか先には進めない

安心して現在地を踏める——これはすべての子どもへの関わりの起点です。強制的な時間割に自分をなじませていくには、相当のバランスが整っている必要があります。それができていること自体がすごいことで、できていない子がいるのは当然のことです。

担任との関係性も重要です。目が合った瞬間に緊張モードが発動しなくなること——戦うか逃げるかという反応ではなく、「この人は敵ではない」という感覚が育つこと——まずその関係性を丁寧に作ることが、その後のあらゆる関わりの土台になります。

信じて、任せて、認める——その前に環境を整える

主体性を引き出すという言葉は、ときに「子どもを好き勝手させる」と誤解されます。しかし葛原先生の実践は、その逆です。

現在地を把握できる手立てを渡す。やるべきことと期限と判断基準を見えるようにする。全体に情報を開示し続ける。途中でフィードバックを循環させる。——これだけの丁寧な環境設計があって初めて、信じて、任せて、認めるという関わりが成り立ちます。

縦の視野(時間軸)と横の視野(やるべきこと・他者・場所)が開いたとき、子どもは近視眼的な「今やりたいこと」から離れて、より広い文脈の中で自分の選択を考えられるようになります。教師が整える環境の質が、子どもの自己判断の質を決めます。

自由は放任ではありません。「おすすめは示し続けながら、目的・目標に至る手段は自由にする」——この一文が、葛原先生の実践の核心を端的に表しています。まず現在地を見えるようにすること。そこから、主体性はゆっくりと育ち始めます。

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