コンテンツへスキップ
サポーターになる

教室というシステムの作り方:漢字テストのルール改定から学ぶ「ゲームデザイン」思考

構造主体的な学び自己調整学習フィードバック学びのコントローラー

教室で運用する学習システムは、子どもたちの行動を分析し、定期的に調整(チューニング)する必要があります。

漢字テストの加点ルールで「コスパの良い点数稼ぎ」が横行した事例を通し、学習の本質からずれないインセンティブ設計の重要性を解説します。

教師が「ゲーム開発者」の視点を持ち、子どもたち(プレイヤー)と対話しながらシステムを改善していくプロセスを紹介します。

こんにちは。このチャンネルでは、全国の子どもたちが自ら学び、考え、生きる力を育むための教育実践である「けテぶれ」「QNKS」「心マトリクス」についてお話ししています。

今回は、私がよく口にする「システムを作れ」という考え方について、教室で実際に起きた「システムのチューニング」の事例をもとにお話しします。

漢字テストで起きた「予期せぬ事態」 先日、漢字の大テストがありました。子どもたちは1学期からの自分の成長を振り返り、学習の成果を確かめていました。

このテストには「プラス点」という、100点以上を目指せる仕組みがあります。合格ラインは80点ですが、それを超えた子には、さらに点数を伸ばすチャンスが与えられます。

プラス点のルールは以下の通りです。

  • 習っていない漢字を書く: 問題文中のひらがなを漢字で書くと加点(例:「ねこ」→「猫」で+10点)
  • 指定された漢字で熟語を作り、文章を書く: 1文につき+10点。1文に多くの対象漢字を入れれば、その分加点される。
  • 四字熟語やことわざ、慣用句を書く:

ルールが生んだ「コスパの良い点数稼ぎ」 このルールを実際に運用してみると、ある現象が起こりました。

それは、四字熟語ことわざを調べるよりも、1つの文章に対象の漢字を使った熟語を詰め込む方が、はるかに効率よく点数を稼げるという事実です。

例えば、「飼」という漢字がテーマなら、「育係の鳥さんがっている育小屋から…」のように、意味の重複を気にせず言葉を並べれば、漢字の数だけ10点が加算されていきます。

これは、採点コストの問題から、文章の質や意味の重複まで厳密にチェックするのが難しく、「対象の漢字が使われているか」という点だけで判断していたために起きたことでした。

その結果、テストが始まってから終わりのチャイムが鳴るまで、ひたすら長い文章を書き続けて点数を稼ぐ子が現れたのです。これは学習というより、いかに短い時間で効率的に点数を稼ぐかという「タイムパフォーマンス」勝負になっていました。

努力が報われない?インセンティブ設計の課題 この状況から、次のような問題が浮かび上がってきました。

> 一生懸命に四字熟語ことわざを学習してテストに臨んだ子よりも、そうした努力はせず、ただひたすら漢字を詰め込んだ文章を書いた子の方が、点数が高くなってしまう

この結果を見た子どもたち自身も、「何かがおかしい」と気づき始めました。

これは、学習システムにおける「ゲームデザイン」、つまりインセンティブ設計の課題です。本来、学習価値が高いはずの語彙を広げる努力よりも、その場しのぎの発想力で点数を稼ぐ行為に、より大きな報酬(インセンティブ)が与えられてしまっていたのです。

このままでは、子どもたちの努力が学習の本質から外れた方向に向かってしまいます。そこで、子どもたちと話し合い、このシステムをチューニングすることにしました。

子どもたちと対話する「ルール改定会議」 システムの改変には、いくつかの方向性が考えられます。

1. 制限する: 「漢字を詰め込む」行為に制限をかける。 2. 価値を高める: 本質的な学習活動に対する報酬(インセンティブ)を上げる。

1つ目の方法は、今まで点数を取れていた子の努力を否定することになり、プレイヤー(子どもたち)の意欲を削いでしまう可能性があります。

そこで、私たちは2つ目の方法を選択しました。つまり、より学習価値が高いとされる行動へのご褒美を大きくすることで、子どもたちの行動を自然にそちらへ誘導しようと考えたのです。

具体的には、以下のようにプラス点のルールを変更する案を子どもたちに提示しました。

  • 【変更前】
  • 【変更後】

意味を調べるには手間がかかるのに10点では割に合わない、という意見を反映し、価値ある努力が正当に報われるように点数を調整しました。

子どもたちもこの変更に納得してくれたので、3学期からこの新ルールで運用することを決定しました。ルール変更は、プレイヤーが準備する期間を保証することが重要です。途中でルールを変えてしまうと、それまでの努力が無駄になってしまうからです。

教師はゲーム開発者?教室を「システム」として捉える視点 今回の事例は、まさしくゲーム開発におけるバランス調整と同じプロセスです。

ゲーム開発会社は、ユーザー(プレイヤー)の動向を分析し、インセンティブ設計を見直しながら、より多くのプレイヤーが楽しめるようにシステムをアップデートし続けます。

  • プレイヤーは、今のシステムでどう行動するのが最も合理的だと判断するか?
  • その結果、どのような行動に流れているか?
  • 望ましい行動を促すには、システムのどこを、どのように変更すればよいか?

このような「システム管理者」や「ゲームデザイナー」の視点で教室を眺め、子どもたちを「プレイヤー」として捉えてみると、指導のあり方が変わってきます。

やってはいけないのは、規約で縛るようなアプローチです。「この方法は禁止します」というルールを追加するのは簡単ですが、それではプレイヤーは窮屈に感じるだけです。

そうではなく、プレイヤーが自ら「こっちの方が面白そうだ」「もっと成長できそうだ」と感じられるような、前向きな行動変容を促すシステムのチューニングこそが、指導者には求められるのではないでしょうか。

教室というシステムをデザインし、子どもたちと対話しながらより良いものに改善していく。この視点は、教育現場に新しい可能性をもたらしてくれるはずです。