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学習意欲のない子にどう向き合うか——可視化と対話のアプローチ

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けテぶれや自由進度学習を導入したとき、どうしても乗りにくい子、やろうとしない子が出てきます。この記事では、そうした子どもたちへの具体的な関わりを二段階で整理します。まず「学習過程を星やシールで可視化し、外発的動機づけを学習力の育成につなげる」アプローチ。そして「それでも動かない子には、脅しや対立ではなく、人としての信頼関係を保ちながら現在地と未来を自然な対話で共有する」アプローチです。子どもを動かす入口は一つではありません。可視化の仕掛けと、信じて待つ姿勢の両輪が、自由進度学習の土台になります。

「やらない子」を前にして

けテぶれを紹介したとき、すぐに乗ってくる子もいれば、どこかぼんやりした様子でなかなか動き出せない子もいます。自由進度学習を始めるにあたって、「やらない子どうするの」「できない子どうするの」という問いは、避けて通れません。

大切なのは、その問いを「どうすれば言うことを聞かせられるか」ではなく、「どうすればこの子が自分の学びを自分でつかめるようになるか」として立て直すことです。そこから、二つの手立てが見えてきます。一つは学習過程を可視化してフィードバックをかける仕組み、もう一つはそれでも動けない子と人間として向き合う対話の構えです。

外発的動機づけから入ることをためらわない

「ご褒美シールで釣るなんて……」と抵抗を感じる方も多いかもしれません。けれども、最初から内発的動機づけで動ける子は、そもそもけテぶれを紹介しなくても自分で勉強しています。 手立てが必要なのは、そうではない子どもたちです。

外発的動機づけから入ること自体は、まったく問題ありません。問題は、どこに対してご褒美を出すかです。テストの点数にご褒美を結びつけると、点が取れない子は最初からやる気を失います。けテぶれのノートの質や、学習に向かう過程そのものを価値づけることが重要です。

また、導入期の「初速」はきわめて重要です。「けテぶれ」という聞き慣れない言葉が飛び込んできて、「自分で考えて自分で勉強する」ことを求められると、わからない子はわからないし、嫌な子は嫌です。そこで最初につまずいてしまうと、「けテぶれ=めんどくさい」というイメージが定着し、その後の立て直しが難しくなります。シールやポイントの仕掛けは、その入り口を支える仕組みとして機能します。

星1つ・2つ・3つ——学習過程を可視化するフィードバック

では、どのようにシールや星を使うのか。具体的な運用を見ていきます。

けテぶれのノートを見ながら、星を1つ・2つ・3つで返します。コメントはほぼ書かず、星の数だけを素早くつけて返す方法です。

星1つは「いいね」です。 ここが良いと思った場所に横線を引いて、星を1つ書くだけ。1冊のノートの中に「いいね」が5か所あれば、星は5つになります。

星2つは「写真を撮りたいよさ」です。 クラスみんなに紹介したいほど良い取り組みを見つけたとき、写真を撮って星2つを書きます。学習科学や学び方に関する知見を蓄えながら「いいね」の感度を高めていくことで、この星2つの質が上がっていきます。

星3つ(トリプルスター)は「新しさ・大きな一歩」です。 教室の中でまだ誰もやったことのない工夫や挑戦(外側に向かう新しさ)、あるいはその子自身にとって大きな前進(内側に向かう新しさ)が見られたとき、星3つを出します。

☆のフィードバック
☆のフィードバック

この星1つ・2つ・3つの基準は、「学び方の見方・考え方」に対する教師の感度と連動しています。学習の調整や粘り強さのどこに星を出すかという感度を教師自身が研いでいくことが、このフィードバックの質を決めます。星の数はシールの枚数に対応させていきます。年間で万単位になることもありますが、そうなればシンプルな丸シールでも十分です。また、星の数を棒グラフのように蓄積するポイントシートを作ると、子どもたちが自分の学習力の積み重なりを一覧で見られるようになります。

指導があって初めて評価が伴います。けテぶれという文脈で教え、実践させているからこそ、その過程を評価できる。星のフィードバックは、学びに向かう力の評価そのものになっています。

学習力という指標が教室の力学を変える

シールや星の蓄積を、ただのご褒美に終わらせないためのポイントがあります。シールが溜まっているということは、あなたの学習力が可視化されているということです。

従来の教室では、学力(テストの点数)しか可視化されません。そうなると、もともと器用で点が取れる子がアグラをかき、真面目に頑張っているが点には出にくい子が報われない構造になりがちです。ところが、学習力という指標が持ち込まれると、この力学が変わります。頑張らずに点を取れてしまう子は、学習過程の星は少ないかもしれません。一方、不器用でも粘り強く取り組む子は、星の数では豊かになりえます。

学習力のABC+
学習力のABC+

学習力とは、目標に向かって自分の心と体を動かす力のことです。 教科の知識が将来どれほど直接役に立つかは、なりたい姿によって変わります。でも、自分の目標に向かって自分を動かす力——これはどんな人生にも必要です。けテぶれやQNKSを回す力は、まさにその学習力の練習になっています。

こういうことを子どもたちと共有していくと、「けテぶれって難しいし点数も上がってないけど、でも粘り強く取り組んでいる自分には意味がある」という感覚が育ちやすくなります。学習力という新しい指標は、努力をするけどまだ結果に結びつかない子どもたちにとって、意欲を支える支えにもなります。

大分析——学力と学習力を並べて振り返る

テストの点が出たとき、点数だけで振り返るのではなく、学力と学習力をあわせて見直す機会を「大分析」と呼んでいます。

「テストの点数は低かったけれど、星の数は多い」という子は、自分の現在地を正直に受け止め、真剣に取り組んでいたということです。 「点数は高かったけれど、星は少なかった」という子は、今持っているもので乗り切ってしまったということです。どちらの振り返りも、子どもが自分の現在地を知るための大切な情報になります。

大分析では、点数だけでは見えない努力や工夫が、学習力という指標を通じて浮かび上がってきます。学力も大切だし、学習力も大切——その両面から自分を見直す機会を繰り返すことで、「分からないところでもがく力が大切なんだ」というメッセージが、子どもたちに少しずつ伝わっていきます。

シールにも反応しない子への語り

シールや星で動く子もいれば、そういう仕掛けにまったく反応しない子もいます。外側の仕掛けはほとんど通用しない、という子がいることも事実です。では、どうするか。

その子の横に行って、話すしかありません。

やれない、できない背景——どこが嫌なのか、どこがしんどいのか——を観察し、問いかけながら一緒に分析していきます。けテぶれでいうところの「計画」を先生が一緒に立てながら、その子がどういう方法で取り組めそうかを一緒に考える場をつくります。

このとき、「けテぶれをやらないともうダメ」というスタンスでは、その子はますます動けなくなります。 大切なのはまず、二つの事実をフラットに伝えることです。一つは「けテぶれをやらなくても、あなたの人生は終わらない」ということ。そしてもう一つは「やらない選択をした先に、見えなくなってしまう世界もある」ということ。脅すのではなく、その子の現在地から、選択の先にある未来を一緒に見ていくような対話です。

今の気分でなんとなくやらないという選択を続けて、後から後悔するのはかわいそうです。だからこそ、「今のあなたの選択がどんな未来につながるか、知っておいてほしい」という気持ちで、自然な文脈の中で語りかけます。ただしこれは、あらかじめ「今日これを言ってやろう」と準備して呼び出す場ではなく、日常の関わりの中でポツポツと届けていくものです。

ただし、この語りが届くためには、人と人として対立していないことが大前提です。

心マトリクス
心マトリクス

心マトリクスで言えば、動けない子はブラックホールゾーンにいる状態に近いことがあります——自分はやりたくないという気持ちに動かされて下へ向かい、「どうせ先生に嫌われている」という認識で自分を見ている。けテぶれが大事だと言っている先生の教室でけテぶれをやらない自分は、先生から否定されている存在だという感覚を持ってしまいやすいのです。

そこをまず回避することが必要です。「けテぶれをやらなくても、あなたはあなたとして素敵だ」というメッセージを、注意深く届けようとすること。 これが、語りかける言葉が届く状態をつくるための土台です。その子と教師が人間として対立していない関係があって初めて、対話は受け取られます。

豊かにほったらかすとは何か

対話を重ね、信頼を届け、それでもすぐには動き出さない子をどうするか。ここで出てくるのが「豊かにほったらかす」という考え方です。

「ほったらかす」というと放置のように聞こえますが、そうではありません。豊かにほったらかすためには、先に豊かにつながっておく必要があります。 つながっているからこそ、ほっておけるのです。この両輪がとても大切です。

つながりを保つとは、その子の存在をちゃんと肯定し続けること、人間として対立しないことです。そして、その子の視界に、けテぶれや自由進度学習を楽しんで取り組む仲間たちの姿をずっと届け続けることです。毎日の教室で問答無用に目に入ってくる他者の姿——これは、教師一人の関わりを超えた力を持っています。

たとえば、苦手なものでも、大好きだという人たちに長く囲まれていると、「自分もちょっと試してみようかな」という気持ちになることがあります。友達が「一緒にやってみない?」と誘ってくれたとき、先生に言われても動かなかった子がやってみる、ということは十分起こりえます。やってみたら楽しくなってきた、楽しくなったからまたやりたくなった——そういう好循環が生まれることがあります。先生との対立がなく、クラスの友達ともつながりを保てている子には、その可能性がずっと開かれています。

「あなたがあなたでやるとき、最も輝く」——その子への深い信頼を持ちながら、焦らずつながり続けること。 それが豊かにほったらかすということです。

おわりに

学習意欲の低い子への関わりは、一つの手立てで一般化できるものではありません。シールで動く子もいれば、対話の中で少しずつほぐれていく子もいれば、友達の存在が決定打になる子もいます。

ただ、どの子に対しても共通しているのは、「その子を否定しない」という構えです。やらない子を責めず、できない子を追い詰めず、人と人として対立しない関係性を保ちながら、学習過程を可視化する仕組みを置き、語りかけ、信じて待つ。

可視化の手立て(星・シール・ポイントシート)と、信頼に基づいた語りの両輪が、自由進度学習の教室に、より多くの子が自分のペースで動き出せる余地をつくっていきます。

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