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子どもが自ら学びを組み替える教室の1日

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自由度の高い授業運営は、子どもに好きなようにやらせる放任ではない。国語・算数・図工・理科と続く1日を通して、子どもは学習内容や時間割の順序を自分で選びながら学びを進めた。教師の時間割は「提案」として示され、子どもはそれを参考にしながら自分の状況に応じて組み替える。ただしその判断の根拠は感覚ではなく、大計画シートによる現在地の確認だ。子どもに任せる場面が増えても、教師は語りとフィードバックで教科内容の学びを支え続けた。計画・見直し・振り返りの繰り返しが、自由度の高い学びを「地に足のついた学び」へとつなぐ。

1時間目 国語 — 見開き2ページでもQNKSを使う

この日の1時間目は国語だった。学年集会があったため教室に戻ったのは1時間目の途中で、残りは25分ほどになっていた。

新単元は「へんとつくり」の学習で、教科書の見開き2ページで完結する内容だった。問いは2つ。偏と旁それぞれの意味的なまとまりについて答えるもので、「読めばわかる」はずの問いだ。ところが、読まずに「わからない」と言う子が続出した。問いに対する答え方が甘い子、1問目はできるが2問目で詰まる子——それはほとんどの場合、教科書をきちんと読めていないことが原因だった。

そのとき、一人の子どもが自発的に取り組んだノートをクラスに共有する場面が生まれた。その子は問いの答えを書くだけでなく、教科書の情報を抜き出し、組み立てて、ノートに整理していた。QNKSの流れにのっとったノートだった。

「読めるっていうのは、つまりこの図が書けるってことだよね」という語りがここから始まる。図を見て「あーなるほど」とすんなり納得できるなら、頭の中にすでにその図がある。それは教科書を読めている状態だ。逆に、図の意味が掴めないなら、まだそこに至っていない。だから、自分で図を書いてみることが必要だ、という話になる。

QNKS(基本)
QNKS(基本)

QNKSはしばしば「長い説明文や物語文を読む道具」として捉えられがちだが、見開き2ページの小単元でも使えることに変わりはない。 書かれている以上、それはどんな情報の構造を持っているかを「抜き出して・組み立てて・整理する」ことができる。「大きな文章だけじゃなくて、こういう見開きの小さな単元でも当然できるはずだよ、だって情報なんだから」——そう語りながら、黒板に教科書の内容を組み立てた論理構造図を示した。読むことに困っていた子はその図を写しながら、内容の構造を理解していった。

25分で全員が終わることはなかった。それでも「読む」とはどういうことかを問い直す語りが1時間目にあったことは、その後の学びにも響いてくる。

計画を立てずに始まったこの1時間目には、最後の5分の振り返りもなかった。「計画と振り返りはセット」というのが、この教室のルールだからだ。

2時間目 算数 — 時間割は「提案」として示す

2時間目のはじまり、クラス全体への語りかけから始まった。

「今日の2〜5時間目は、算数・図工・図工・理科です。専科の授業も、全体で動く体育もない。学級で完結する時間割です。ということは、比較的自由に組み替えることができます」

算数の小テストは翌日で、単元末テストは週明け月曜日。その見通しを踏まえて「今日の算数はすでに手応えがある」と判断できるなら、図工を前倒ししてもいい。理科から先に始めてもいい。今日は2〜5時間目まで通した計画を立ててみましょう、という提案だった。

そこで一人の子どもが手を挙げた。「時間割にない教科もやっていいですか」。音楽会に向けた楽器のオーディションが控えており、練習時間を確保したいという申し出だった。

回答はOKだった。算数ではなく音楽をやるという発想を認める、というスタンスだ。ただし、条件がある。

「算数をやらなくていいかどうかは、感覚で判断してはいけない。毎回の授業で作っている大計画シートを見て、全ページの内容にできるの丸がついているなら、少なくともOKです。なんとなくいけるだろうはダメ。いけるかいけないかは、あなたの大計画シートを見たらわかるから」

大計画シート
大計画シート

大計画シートには、全ページの内容について「やってみたか」「できるようになったか」「説明できるか」「要約文や問題を作れるか」という段階的なチェックが並んでいる。自分の現在地を事実として確認する道具だ。「なんとなく」で動くのではなく、現在地を根拠として判断する——それが自由に組み替えるための条件になる。

算数を続ける子、音楽の練習のために4階の廊下へ出る子、理科から先に始める子、図工を前倒しにする子。2時間目はそうした複線の学びになっていった。

3・4時間目 図工 — 計画の見直しと教科へのフィードバック

3時間目が始まるとき、準備を始めようとしている子どもたちを葛原は一旦止めた。

「今日の君たちは、2〜5時間目まで通した計画を立てているはずです。1時間ごとに計画した人はそのまま図工へ進んでいい。でも1日の計画を立てている人は、まず計画を見直してください。順調ならそのまま。変更が必要なら修正する。5分間、まずそこに時間を使いましょう」

できた子から手を挙げ、「こういう計画で、こう変更しました」と発表する。誰かのアイディアがヒントになれば、それを取り入れて自分の計画をさらに調整する。学びを始める前の5分間は、現在地を確認して計画を接続し直す時間だ。

1週間予定表
1週間予定表

この計画の見直しは4時間目の冒頭にも繰り返された。「もう全部の計画は立てているから確認はいらない」と言っていきなり始めるのではなく、毎時間の頭に5分間とって自分の状況を確認することが、1日を通して繰り返される。

3・4時間目は昆虫の絵を描く図工だった。子どもたちが取り組む時間、葛原は教室を回り続けた。「背景の描き方はこうするといい」「昆虫の足の節の書き方がいい」「理科のICT教材も使っていい」——そうしたフィードバックをひたすらかけていく。子どもに任せている時間も、教師は教科の内容をフィードバックし続けている。 自由な時間に見えても、それは教師が手を離しているのではなく、一人ひとりの学びの質に対して個別に関わり続けている時間だ。

算数が苦手な子たちは図工をひとまず置いて算数を頑張り、図工が得意で早く進められた子は漢字の練習(漢字けテぶれ)に切り替えていた。それぞれの現在地から動き方が変わっていくのが、複線型の授業の実際の姿だ。

5時間目 理科 — 協働的な学びと探究の広がり

5時間目は理科。ここでも最初の5分で計画を立て、最後の5分で振り返るリズムは変わらない。

この日の理科は、単元の学習をすでに終えている子が多い状態だった。そこで「縦に深める」選択と「横に広げる」選択が示された。理科をさらに掘り下げてもいいし、別の学習に移ってもいい。午前中に練習できなかった子たちが音楽に切り替え、楽器の合格が出ていた子が4階で8人の指導役に回るという場面も生まれた。

単元学習を続ける子たちはそれぞれに走り始めた。ある男の子グループは台風への興味から発展し、タブレットで調べながら紙にまとめはじめた。ある女の子グループは、植物の育ちから大豆の成長へと内容を広げ、4人でカードに情報を抜き出してから、それを新聞に配列して整理するという協働的な取り組みに入っていた。来週のテストに向けた時間の見通しも確認しながら、進め方を話し合っていた。

教師の動きは、理科の学習において大切なことをひたすらフィードバックしていくことだった。子どもたちの選択がどこに向かっていても、教師は教科内容への関わりをやめていない。

振り返りでは「〇〇さんのおかげで吹けるようになりました」という声が上がった。音楽で誰かに助けてもらったことへの感謝だ。自分の1日を振り返る場が、他者と一緒に学んだことへの気づきにもつながっていた。

1日の振り返り — 3+3観点と失敗の分析

1日の最後、5分前になったタイミングでけテぶれノートを開き、振り返りに入るのがこの教室のルールだ。使うのは3+3観点。プラスは良かったこと、マイナスは悪かったこと、矢印はこれからどうするか。ビックリマークは気づいたこと、ハテナは疑問に思ったこと、星は自分の変化だ。書けた子から手を挙げ、発表し、全体でプラスのリアクションを返す。5分間でそれが回る。

この日は、絵の具の図工で切り替えが甘くなった場面があった。5分前のタイミングでノートが開かれず、片付けも間に合わなかった。

葛原は責めることなく、子どもたちと一緒に「なぜ今日の図工では失敗したのか」を考えた。出てきた分析はこうだ。絵の具は没頭しやすく、時間意識が薄くなる。他の教科と違って、片付けに時間がかかる特性もある。加えて、図工でこの切り替えを経験した機会がまだ少なかった。「これぐらい分析できたら、次の図工は大丈夫かな」と言ってから、それぞれの振り返りの時間へ入った。

失敗を責めるのではなく、「なぜそうなったか」を分析して、次の行動へつなげる。 それが振り返りの機能だ。計画を立てなかった1時間目(国語)には振り返りをしない。計画と振り返りはセットであり、両者は形式的なルーティンではなく、今日の学びを現在地に接続する機能として働いている。

自由な学びが「地に足のつく」学びになるために

1日を通して、子どもたちは時間割を組み替え、教科の順序を変え、深める対象を選んでいた。一見すると子どもに委ねきった授業に見えるかもしれないが、その実態は異なる。

葛原はこう語る。「やりたさに流されて、楽しげなことばかりやって、結局何にも学べませんでした、あなたの学習の目は育ちませんでした、根は伸びませんでした——そういう学びはやめましょう」

自由度の高い学びには、「地に足のついた学び」へ向かわせるための手立てが必要だ。 大計画シートで現在地を確認すること、計画の見直しに毎時間の頭5分を使うこと、教師が語りとフィードバックで教科内容の学びを支え続けること、そして3+3観点で1日を振り返ること。これらがあるから、子どもが選んだ学びの道は「ふわふわした学び」にならない。

学びのコントローラーを子ども自身が持つことと、その使い方を教師が語りとフィードバックで支え続けることは矛盾しない。道具と語りがあるからこそ、子どもは任せられる。この1日の記録は、そのことを具体的に示している。

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