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子どもの「中だるみ」は成長のサイン — モチベーションの波を乗りこなす学級づくり

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5〜6月や行事後の教室では、子どもたちのモチベーションが大きく落ちることがあります。このとき大切なのは「熱を維持させる」ことを目標にするのではなく、波打つこと自体を自然な現象として捉えること。教師が客観的に仕組みを語り、子ども自身が自分の現在地を知り、波を乗りこなせるようにすることが、本当の意味での学習力の育成につながります。

「熱を維持し続ける」という発想を見直す

4月の年度始めや運動会などの行事を経て、子どもたちのモチベーションがドーンと落ちる時期があります。けテぶれや生活の自己管理にも、なんとなく乗り切れない空気が漂い始める。そういう場面を前にしたとき、教師がまず問い直したいのは、「子どもたちの熱を下げさせないようにするにはどうするか」という問いの立て方そのものです。

「ずっとモチベーション高くやり続けることは幻想だ」 ——これが葛原氏の出発点です。適切に波打つことを認めず、高い熱を維持させようとすればするほど、波はより大きく、より苦しい落ち方をします。そしてもう一つ、見逃せないことがあります。教師がモチベーションの低下をネガティブに扱い始めると、子どもたちもまた今の状況をネガティブに見始める——その順番が確かにあるということです。

中だるみに直面したとき、教師が怒りや落胆でなくフラットな視点を保てるかどうか。まずそこが、子どもたちの自己認識を左右します。

モチベーションの波
モチベーションの波

モチベーションの波は、個人によってその形も大きさも異なります。コツコツと小さな波でやり続けられる子もいれば、やる日とやらない日の差が激しい子もいる。どちらも個性であり、どちらかが「良い姿」でも「悪い姿」でもありません。大切なのは、それぞれが自分の波を知り、乗りこなしていく力を育てることです。

行事後に波が揃って大きく落ちる仕組み

特に行事後には、教室全体が一気に大きく落ちることがあります。その理由を子どもたちに説明できると、子どもは状況を客観的に理解できます。

運動会などの行事に向けて、学校は意図的に子どもたちのモチベーションを引き上げます。一人ひとり違うはずの波が、行事によって強制的に揃えられるのです。そしてその頂点でパッと手を離されると、ゴムを引っ張って離したときのように、揃った波が一斉に反対方向へ落ちていく。波には、同じような波長を吸収してより大きくなる性質があります。近くにある大きな波が互いを増幅し合うように、落ちている子どもたちのモチベーションも互いを引き込んで、より深く沈みやすくなります。

こういう仕組みがあることを、叱責ではなく「説明」として静かに子どもたちに届けることが、語りの核心です。「今こうなっているのはこういう理由がある」と冷静に提示する。すると子どもたちは状況を客観化できるようになり、「だらけるな」と言われ続けるだけでは起きなかった自己認識が動き始めます。

子どもへの「語り」で現在地を見せる

状況を客観視させる語りは、二段構えで届けられます。

一つ目は、物理現象としての説明です。「みんなのモチベーションの波が揃って落ちている、これは人間として自然なことだ」というメッセージ。抜けるのが難しい状況であることも含めて、冷静に事実として伝えます。これだけでも、今の状況を「自分が悪いから」と必要以上に否定的に見ることを防げます。

二つ目は、個人の意思の話です。「でも、あなたたちはゴムでも波でもなく、意思を持った一人の個人だ」という視点を重ねて届けます。波に飲まれるだけではなく、自分がこうありたいと意識することで状況を変える選択ができる。その中で「今の自分の現在地はどこか」「自分の選択がどう周りに影響するか」を考え始めた子どもは、集団の中での自分を一段高い視点で認識し始めます。

仕組みが説明されたとき、子どもたちは驚くほど納得します。怒鳴られるのではなく、理解できたとき、人は初めて自分の行動を調整する意欲を持てる。語りは、子どもの自己省察の入り口を開く鍵です。

多様性を認めながら、一人の一歩を教室全体へ

落ちているときに子どもたちを一律に引き上げようとする必要はありません。むしろ大切なのは、今この瞬間に「上がれる子」がいることを見落とさないことです。

状況として全体が落ちていても、個々を見れば今日なら踏み出せる子がいます。その多様性への眼差しが、次の展開をつくります。「もし今日少しでも気分が乗っているなら、ぜひその一歩を踏み出してほしい」と伝え、その一歩をフィードバックとして受け取る。「ありがとう、このエネルギーがクラス全体を支えてくれている」と言葉にする。

一人が出したポジティブな波は、波の性質上、周囲を吸収して大きくなっていきます。その子一人が得をするのではなく、教室全体のポジティブなうねりを少しずつ増幅させていく——あなたの一歩が、沼にいる誰かを引き上げるエネルギーになる。その位置づけを子どもたちに届けることで、頑張ることが自分だけの問題ではなく、教室への貢献として受け取られるようになります。

物理的な距離という具体的な手立て

語りを経て「今日はアクセルを踏んでみよう」と動き出した子が数人出てきたとします。そのとき席の移動が自由な教室であれば、「今日頑張ろうという気持ちがある人は、この子たちの近くで勉強してみなさい」と伝えてみてください。特別なやりとりをしなくてもいい。けテぶれシートやけテぶれノートで自学している子の傍に席を移すだけ——物理的な距離を近くするだけで、ポジティブな波は干渉し合い、増幅していきます。

こうして少しずつうねりが大きくなっていくことで、7月の夏休みに入るころには教室全体がまた意欲的な状態で迎えられる——という大きな流れを描くことができます。短期的な変化を求めるのではなく、波を緩やかに育てていくような感覚で関わることが重要です。

深く落ちた子には、心マトリクスで現在地を理解させる

中には、波に飲まれてどっぷり沼に浸かってしまった子もいます。そういう子に対しては、責めることも無理に引き上げようとすることも、あまり意味をなしません。

まず「今めっちゃしんどいよな」と受け取り、「それが沼の状況やで」と現在地を示してあげる。 そこで役立つのが心マトリクスです。

心マトリクス
心マトリクス

心マトリクスの沼を理解するための大切な状況として経験させてあげることで、子どもは今自分がどこにいるかを客観視できます。沼にいる経験は失敗ではなく、「次に沼に入りかけたときにどこかで引き止まれるか」「入ってしまったときにどう抜け出すか」を学ぶための、実はとても有益な体験です。

さらに深刻なのは、落ちている子同士がつながり、排他的なグループ(ブラックホール)を形成し始めるケースです。「自分たちは悪くない、頑張っているやつがおかしい」という自己正当化が広がると、沼よりも抜け出しにくい状況になります。こうした集団ダイナミクスも、先に仕組みとして語っておくことで、子どもたち自身が「あ、今ブラックホールに向かいかけてるかも」と感じ取れるようになります。自己省察の芽が育っているかどうかが、ここで問われます。

日常の学習は「歯磨き」のように

中だるみの対処を考えるとき、行事後の大きな波だけでなく、日常のモチベーションの小さな波についても同じ姿勢が必要です。

葛原氏は「歯磨き」という比喩を使います。歯磨きを、毎日やる気満点でシャカシャカ磨く人はいません。でも、歯磨きをやめる人もいない。なぜなら、やめると虫歯になるから。日々淡々と、なかば習慣として続けている。けテぶれや生活の自己管理も、そういうレベルに持っていくことが目標です。

サボりたい日には、軽やかにサボる。 頑張れる日には、アクセルをしっかり踏む。このアップダウンを自分でマネジメントできることが、学習力の育ちとして大切にしたいことです。サボりたいのに無理に頑張ることを繰り返すと、運動会後と同じように、どこかで大きく破綻する。軽やかに休める日をつくることが、次に踏み出すためのエネルギーを生みます。

そして、けテぶれや生活の自己管理に対して子どもが突然「熱くなる瞬間」が来たとき——教師はそこに反応してあげてください。やめたら気持ち悪い習慣として根づきながら、熱が高まる瞬間には思い切り伸ばしていく。そういうサイクルを子どもたち自身が学んでいく教室が、中だるみとの長い付き合い方の目標地点ではないかと思います。

おわりに

「中だるみをなくす」のではなく、「中だるみのある教室で子どもたちが自分の波を知っていく」——そこに目標を置き直すと、教師のアプローチはずいぶん変わってきます。

落ちていることを怒らず、責めず、仕組みとして語る。上がれる子を見つけてフィードバックし、その一歩が教室全体に貢献していることを伝える。深く落ちた子には現在地を示し、そこからの経験を次の力に変える。そうした積み重ねの中で、子どもたちは主体性を持って自分の波を乗りこなす力を少しずつ育てていきます。それが結果として、夏休みに向けて教室全体の大きなポジティブなうねりをつくっていくのです。

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