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心マトリクスで設計する、しんどい日の学び方

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校外学習の翌日、疲れの残る教室で起きたことを記録する。教師は朝の語りで、子どもたちの疲労を「怠け」として排除するのではなく、心マトリクス上の現在地として見取り直した。沼にいることそのものは問題ではない。ただし、そこからネガティブ発言を外に垂れ流すことがブラックホールへの入り口になる。その線引きを確認した上で、子どもたちは自分の状態をもとにその日の学習計画を立てた。対照的な二人の計画と、そこから生まれた分析と練習のつながりを紹介する。

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しんどい日を「旅する」

校外学習の翌日、教室には疲労が残っていた。前日にさまざまな場所をバスで回り、刺激と感動を受けた後の金曜日である。朝から子どもたちの様子は重く、「しんどい」という空気が漂っていた。

こういう日、どう対応するか。「気持ちを切り替えて頑張りなさい」と励ますのも一つだが、それは子どもたちの実際の状態を見ていないことになる。

この日の朝は、まず現実を正直に受け止めるところから始まった。「しんどいならしんどいなりに、しんどい世界を旅しましょう」。そう伝えた上で、心マトリクスを使って今日の自分の位置を確認することへと話は進んでいく。

心マトリクスで「今日の自分」を見取る

心マトリクス
心マトリクス

心マトリクスは、自分の心の状態を俯瞰するための地図である。縦軸に動きのエネルギー(やってみる⇆考える)、横軸に感情の方向(安心・信頼↔不安・不信)が置かれ、自分の現在地を読み取ることができる。

校外学習翌日の疲れた状態は、この地図のどこに当たるか。「やってみる⇆考えるということができなさそうなくらい疲れている」状態では、下方向への動き——考えたくない、自分の心に動かされてただダラダラしたいという方向へ傾いていく。これが沼である。

沼にいること自体は、否定されない。 人生にそういう日があることは当然であり、そういう日の自分をしっかり見つめ、観察し、分析することに価値がある。「そういう日の自分もしっかり見つめて分析したらいいわけですよ」という言葉には、しんどい状態を排除すべき失敗として扱わない姿勢が込められている。

問題になるのは、沼にいることではなく、そこから何が起きるかだ。

沼とブラックホールの境界線

沼の近くにはブラックホールがある。「どうせやっても無駄だ」「どうせ私なんてダメだ」という「どうせどうせ」の言葉が渦巻くゾーンだ。

沼からブラックホールへの入り口になるのが、ネガティブ発言である。疲れていて「だるい」「めんどくさい」「やりたくない」という気持ちが生まれるのは当然だ。しかし、それを心の外に出して周囲に垂れ流してしまうと、頑張ろうとしている誰かのやりたいという気持ちを壊すことになる。

この教室には「俺は元気」という子もいた。やる気のある子がいる中でネガティブな言葉が飛び交えば、場の温度が下がる。言った本人も嫌な顔になり、聞いた側も嫌な顔になる。心マトリクスで言えば、左側——ブラックホールの方向——に自分の位置がずれていく動きだ。

ここで大切にしたいのは、「感情を持ってはいけない」ということではない。問題にしているのは、自分の内側に留めておけずに外へ垂れ流す言動であり、感情そのものを抑え込もうとしているわけではない。沼にいる自分を観察し続けることはむしろ奨励されている。ただ、その観察が「だだ漏れ」にならないことが、自己調整の起点になる。

「まあいいか」という花の言葉

では、沼にいながらブラックホールに近づかないためにはどうすればいいか。

ここで登場するのが、花の領域の合言葉である。「まあいいか」

「どうせどうせ」がブラックホールへ向かう言葉だとすれば、「まあいいか」は花へ向かう言葉だ。今日は全然できていないかもしれないが、まあいいか。思い通りにいかなかったかもしれないが、まあいいか。しんどい自分を楽観的に、ゆるく受け止めるための内言である。

「沼と花を行き来するような場所にいれば、今日の学びも生活も嫌な顔にはならずに済む」——これは気持ちを無理やり上向きにするのでもなく、落ち込みを長引かせるのでもない。自分の状態を自分で観察しながら、とりあえず今日を過ごしていくためのスタンスだ。

自己省察とは、良い状態だけを見るものではない。低調な日の自分をも「こういう気持ちになるんだ」と観察対象にできるとき、それはひとつの学びになる。

沼の経験をカードに持っている子

朝の語りの中で、以前の放送で触れた女の子の話が引き合いに出された。早い段階から沼にはまる経験をし、その中で自分を観察し続けた子だ。「こういうことをやってみたけどダメだった」「こういうことをやってみたらポコッと抜けられた瞬間があった」——そうやって自分に対して実験を重ね、反応を見てきた。

この日、その子はごそごそと机を探り始め、一枚のカードを出してきた。

カードリングに止められたキーカードの一枚で、そこにはこう書かれていた——沼にはまったときどうするか。休憩する、外の空気を吸う、友達と競争的な学習をすると回復する。

自分の回復方法を、過去の経験から言語化し、カードとして手元に持っている。 これは自己省察が具体的な行動の道具になっている姿だ。「じゃあ今日もあなたはこのカードを参考に一日の計画を立てられるよね」という声かけは、自然な流れだった。まだ沼の住み心地を知らない子には「今日はそれを経験するいい機会だからやってみよう」という話も添えられた。

自分の状態をもとに、今日の計画を立てる

朝の語りを受けて、算数の時間に向けて子どもたちはそれぞれ学習計画を立てた。「自分の状態をもとに、今日の過ごし方の計画を立てていい」という場が設けられた。

今日の単元は、倍の概念と割り算が絡む少し難しい問題だ。疲れた体にパワーのいる学習である。そこで子どもたちはどんな計画を立てたか。対照的な二人の発表が、この日の核心になった。

月の種類を変える——男の子の計画

一人目の男の子はこう言った。「とりあえず算数をやってみます。でも難しくてイライラしてきて、月パワー・太陽パワーが落ちてきたら、漢字に切り替えます」。

漢字は今の自分が得意で、ぐんぐん伸びている場所だ。熟語や四字熟語を辞書で調べる「漢字のプラス点」は楽しくできる。だから算数で消耗したらそちらに切り替えてエネルギーを回復させ、また算数に戻る——というサイクルを計画していた。

これは「休憩する」「体を動かす」といった従来型の回復方略とは異なる発想だ。月の中にいながら、月の種類を変えることによって月のパワーを維持するという視点である。一つの学習を延々と続けるよりも学習内容を切り替えた方が知識の定着や集中の面で効果的だという心理学的な知見(いわゆるインターリービング)とも重なる。

自分の得意と苦手、今日の状態を踏まえた上で組み立てたこの計画は、自分なりの学び方として十分に機能するものだった。

逆パターン——女の子の計画と、楽しさの罠

もう一人の女の子は逆のアプローチを取った。「今日はしんどいから、まず好きな勉強をします」。

コンパスで模様を描く学習は不十分ではあるが楽しい。だからまずコンパスで模様を描いて月パワー・太陽パワーを高め、集中力が上がった状態で本単元に臨もうとした。先に回復してから本題へ、という計画だ。

男の子が「本題を先にやって、消耗したら得意教科へ」であれば、女の子は「好きな教科でまず充電してから本題へ」である。どちらも自分の状態を踏まえた上で、月パワー・太陽パワーをどう使うかを主体的に設計しようとしている点で共通していた。

しかし、実際にはこうなった。コンパスの模様が楽しくなりすぎて、結局1時間をコンパスで過ごしてしまった。

これは失敗だが、ここからが重要だ。 彼女はその日の振り返りで、こう分析した。「次はタブレットのタイマーを設定して、学習内容を切り替えないといけない。楽しいことからやるべきことへ向かう切り替えは難しいから、タイマーを使って自分を切り替えたい」。

失敗を「失敗だった」と記録するだけでなく、次にどうするかの具体策まで出している。計画が崩れた経験が、新しい学びのコントローラーを生んだ瞬間だった。

分析から練習へ——具体案があるかで質が変わる

この振り返りへの声かけはこうだった。「分析から練習へのつながり——この架け橋は、じゃあ何をするかという具体的なアイデアや作戦が立てられているかどうかで、練習の質が全然変わる。だからすごいよね」と。

振り返りが「ダメだった」で終わるとき、次の練習は目的を失いやすい。しかし「タイマーを使う」という具体的な一手が手元にあるとき、次の学習には向かう方向が生まれる。

3+3観点の「→(矢印)」の使い方でもある。何が起きたかを記録するだけでなく、次に何をするかという具体案まで踏み込めているかどうかが、分析の深さを決める。分析の質は具体案によって完成し、練習の質は分析によって向かう方向が決まる。 このつながりを、自分の言葉で描ける子どもの育ちが、この日の教室に見えた。

おわりに

しんどい日は、避けるべき失敗ではない。心マトリクス上の現在地として見取り、そこからどう学ぶかを自分で設計できる日になりうる。

沼にいる自分を観察し、回復方法をカードに持ち、今日の計画に活かす。疲れた状態でも算数と漢字を行き来しながら月パワーを維持しようとする。楽しい学習に入り込みすぎた経験を、タイマーという具体策につなげる。

こうした子どもの姿は、「しんどい世界を旅しましょう」という朝の語りと、心マトリクスという地図があって初めて生まれた。道具と語りが合わさるとき、しんどい日は観察と自己調整の絶好の機会に変わっていく。

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