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心マトリクスとけテぶれマップはどう生まれたのか

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心マトリクスとけテぶれマップは、最初から完成された理論図として生まれたわけではありません。「心を知り心に勝つ」という学級の標語から縦軸が、大学時代から変わらなかった「信じて思いやる」という関係観から横軸が育ち、画用紙に貼っただけの図を子どもたちが「今ここ」と使い始めたことで、メタ認知を促す道具として立ち上がりました。それとほぼ同時期に、学び方のルートを振り返る地図としてけテぶれマップも成立します。内面の地図と学び方の地図という対をなす2枚は、教室実践のただ中で、子どもとのやり取りの積み重ねから生まれています。

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3本柱の時代——心マトリクスが生まれる前夜

ある転任の年度、葛原氏はけテぶれ・QNKS(問い・抜き出し・組み立て・整理)・学び合いという3本柱で教室を組み立てていました。けテぶれというパッケージを子どもたちに渡すことへの手応えはすでに得ていた一方で、もう一つ整理したいことが残っていました。

それは、授業にとどまらず生活場面も含めて、自分が子どもたちに伝え続けている「良いこと」とは何か、という問いです。そのときどきで思いついたことを言うのではなく、一本筋を通したい。そう考えたとき、二つの軸が浮かび上がってきます。

「心を知り心に勝つ」——縦軸の誕生

縦軸の出発点は、学級けテぶれ通信のタイトルに掲げた標語でした。「心を知り心に勝つ」です。

心を知る、というのは心マトリクスで言えば地球にあたります。自分の心の状態をつかまえること。そして心に勝つ、つまり月のパワーを発揮するという方向に引っ張ることで、一生懸命努力する姿勢が育まれる——という指導の軸でした。ある年度は「心に勝つ・心に負ける」を縦軸に、別の年度は「信じる」の「信」を学級通信のタイトルにしていました。転任先で4年生を担任した年に、この縦軸と横軸が統合されて、心マトリクスとして結晶します。

大学時代から変わらなかった横軸——「信じて思いやる」

横軸の起源は、さらに前にさかのぼります。

葛原氏が大学時代から繰り返し口にしてきた言葉があります。「信じて思いやる」です。相手を束縛するのではなく信じる。信じてもらったからこそ、相手は心配をかけないように配慮して動く。その双方向の関係が豊かなつながりを生む——という、青臭いけれど本質的な関係観でした。

太陽軸、つまり「信じて思いやる」という文言だけは、心マトリクスの他の部分がどれだけ変わっても変わりませんでした。縦軸が「心に勝つ・自律」から「やってみる」へと何度も整理されていくのとは対照的に、横軸の根っこは大学時代の言葉のまま今日に至っています。

縦軸と横軸が揃うと、4象限をどう構成するかという問いが立ちます。右上に星マークを子どもと一緒に折り紙で作って貼り、左下には「心に負けることを繰り返した先に何があるか」を示すシンボルを置く。右下・左上の表現をどう言語化するかは、その後も運用しながら整理が続いていきます。

図を貼っただけで、子どもが使い始めた

当初、心マトリクスの原型は画用紙に手書きして教室の壁に貼っただけのものでした。導入も説明も、特にしませんでした。ただ貼った、それだけです。

ところが、子どもたちはその図を自然に使い始めます。「先生、今ここだわ」という言葉が教室に出てくるようになりました。自分の現在地を図の上に位置づけて語る。そうした自己省察が、子どもの側から自然に生まれてきたのです。それはメタ認知を促すツールとして機能していることを意味していました。

理論から生まれたツールではなく、貼られた図に子どもが意味を見出した。その手応えとともに、心マトリクスは教室の学びのコントローラーとして実態を持ち始めます。

心マトリクス
心マトリクス

そこから解像度を上げる作業が始まります。縦軸・横軸の言葉を整理し、4象限の意味を子どもたちと対話しながら明確にしていく。やがて「心マトリクス」という名前が降りてきたとき、図にはすでに確かな厚みがありました。年度末には、その一年間の実践を子どもたちと振り返りながら黒板に図を書き直し、認識を共に深める時間を持ちます。子どもたちにも、葛原氏にも、すっきり入ったという確かな手応えとともに。

「考える」と「やってみる」——けテぶれ・QNKSとの統合

心マトリクスが整ってきた頃、もう一つ大きな統合が起きます。

もともと縦軸の営みは「考えること」、横軸の関係性は「思いやること」と整理されていました。そこで縦軸の「思いやる」を「やってみる」に置き換えてみると、けテぶれ・QNKSとの関係が一気に見えてきます。

月のパワーを発揮する、つまり自律・努力という内面の営みの具体的な動作が「考えること(QNKS)」と「やってみること(けテぶれ)」だったのです。月と太陽の内面循環を「考えるとやってみる」の往還として捉え直すことで、心マトリクスとけテぶれ・QNKSが初めて統合されました。

やってみる⇆考える
やってみる⇆考える

この置き換えが、3つの道具を1つの体系に収める鍵でした。 心マトリクスで月・太陽の循環を内面の地図として扱い、その具体的な動作としてQNKS(考える)とけテぶれ(やってみる)が位置づく。電気と磁気の理論が実は同じ現象を記述していると分かったような、論理的な統合の感覚だった、と葛原氏は語ります。太陽軸の「信じて思いやる」は、人と人との関係を扱う軸として別に立ちます。

もう一枚の地図——けテぶれマップの成立

心マトリクスとほぼ同時期に、もう一枚の図が成立します。それがけテぶれマップです(当時の名称は「学習会マンダラ」)。

心の内面を整理する地図が心マトリクスであるとすれば、反対側には学び方を整理する地図が必要です。けテぶれ・QNKSを渡すだけでなく、それをどういうルートでどう展開させれば、この学習空間で学び方を学ぶことができるのか。そのルートの選択を示す地図を作りたいという必要感が、自然に湧き上がってきました。

作り方は心マトリクスと似ています。左上の「やってみる」から始まり、できたか・できなかったかで分岐し、さらに選択肢が広がっていく。最終的には「学びの海の冒険(横方向)」と「縦に深める(縦方向)」という両軸を持つ地図として組み上がりました。

けテぶれマップ
けテぶれマップ

この図も、画用紙に書いて教室に貼りました。振り返りの時間には、けテぶれマップと心マトリクスの2枚を黒板に並べて貼り、自分がどういうルートを辿ってきたかを子どもたちが振り返る場を作りました。自己省察の時間に2枚の図が並ぶ。子どもたちにとって、これが共通の言葉になっていきます。

内面の地図と学び方の地図——対になる2枚

心マトリクスとけテぶれマップの関係を整理すると、次のようになります。

月と太陽を行ったり来たりする、という一言で表せる内面の循環があります。しかし実際の教室では、それよりもっと複雑に揺れ動きます。その複雑さを丸ごと扱うための地図が心マトリクスです。

同じように、「考えるとやってみるを行ったり来たりする」という一言で表せる学び方の往還があります。しかし実践の中で選択肢はより複雑に分岐します。その複雑な展開を扱うための地図がけテぶれマップです。

心マトリクスが内面(心)の地図であるとすれば、けテぶれマップは学び方(外側)の地図です。 内外往還という視点で見れば、2枚は対をなす羅針盤として機能しています。解像度としては、けテぶれ・QNKSと対になるのが心マトリクスの月・太陽であり、その内面の往還をさらに詳細に展開する地図が心マトリクス全体、学び方の往還を詳細に展開する地図がけテぶれマップ——という入れ子の構造です。

図は一瞬で組み上がる——6年間の実践の上に

最後に、葛原氏がこの経緯で繰り返し語ることがあります。

心マトリクスもけテぶれマップも、最終的な形に「組み上がる」のは一瞬です。職員会議の最中に、ふっと形が見える。手を動かすと、あっという間に図として結晶する。

しかし、その一瞬の背景には、子どもたちとの大量のやり取りと、6〜7年にわたる実践の積み重ねがあります。貼っただけの図に子どもが意味を見出す瞬間。「先生、今ここ」という言葉が出てくる日々。「心を知り心に勝つ」という標語を通信に掲げながら学級を組み立てた年度。「信じて思いやる」を軸にしようとしていた大学時代の言葉。それらが全部、土台として積み上がっています。

年度末にキーノートで画像化し、翌年度の教室に印刷して貼り出す。その繰り返しの中で、図はだんだん精度を増していきます。理論が先にあって図が生まれたのではなく、実践の履歴を整理する中で、内面と学び方を見える化する羅針盤として立ち上がった。 それが、心マトリクスとけテぶれマップ誕生の本質です。

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