兵庫県の小学校での研修を通じて、教科担任制が抱える「学びの一貫性」という課題が浮き彫りになりました。本記事では、その課題解決の鍵となるけテぶれ・QNKS・心マトリクスの可能性について解説します。さらに、研修で生まれた対話から、学年や教室の壁を越えた未来の教育の形を展望します。
はじめに:先進的な取り組みを行う小学校での研修 先日、兵庫県稲美町の小学校で研修を行いました。この学校は、1学年1クラスという小規模校でありながら、教科担任制とチーム担任制を併用するという、非常に先進的な取り組みをされています。
3年生から6年生までを5人の先生が教科担任として担当し、学年をまたいで授業をされているとのことでした。学校全体でけテぶれやQNKSに関心を持っていただき、特に算数の授業では積極的に取り入れながら1学期を過ごされたそうです。
校舎に一歩足を踏み入れただけで、先生方の温かく前向きな雰囲気が伝わってきて、これから始まる研修への期待が高まりました。
研修で生まれたライブ感:QNKSで学校の現在地を探る 研修の冒頭で、けテぶれの基本的な考え方をお伝えした後、先生方に「今の自分たちの学校はどのような状況か」というテーマで対話の時間を取りました。すると、驚くほど前向きで深い対話がすぐに始まり、そのエネルギーに私も引き込まれました。
そこで私は、当初予定していたスライドを1枚も使わず、その場で生まれた先生方の学びのエネルギーに応じる形で研修を進めることにしました。
具体的には、事前に用意していただいたカードを使い、思考を整理するフレームワークであるQNKSを実践しました。
- Question(問い):自分たちの学校の現状の課題は何か?
- Nukidashi(抜き出し):課題に関するアイデアや意見をカードに書き出す。
- Kumitate(組み立て):カードをグループ分けしたり、つなげたりして構造化する。
- Seiri(整理):グループで意見をまとめ、発表・共有する。
このプロセスを通じて、先生方はご自身の思考が可視化され、より深い対話や分析が生まれることを体感していただけたのではないかと思います。まさに、QNKSの体験会のような2時間となりました。
教科担任制の課題を乗り越える「学びの共通言語」 研修での対話を通じて、教科担任制ならではの課題も見えてきました。それは、多くの先生が入れ替わり立ち替わり教室に入ることで、学びの進め方に一貫性が生まれにくいという点です。
それぞれの先生が独自の方法で授業を進めると、子どもたちにとっては学びが分断され、まとまりのないものになってしまう可能性があります。この課題に対し、校長先生は、先生方で「学び観」や「学習観」を共有することの難しさと重要性を語ってくださいました。
学びのOSとしての「けテぶれ」と「QNKS」 この課題を聞いたとき、私は「だからこそけテぶれとQNKSが有効なのではないか」と強く感じました。
- けテぶれ:自律的な学習サイクル(計画→テスト→分析→練習)は、国語でも算数でも、1年生でも6年生でも通用する普遍的な「学びの型」です。
- QNKS:情報を読み解き、考えをまとめ、表現するという思考のプロセスもまた、あらゆる教科を貫く土台となります。
これらは、教科や学年という枠を越えて、子どもたちの学びのOS(オペレーティングシステム)となるものです。先生方がこの共通言語を持つことで、教科担任制であっても一貫した学びの文化を築くことができ、分担制の強みを最大限に活かせるはずです。
理論から実践へ:学校全体で「けテぶれ」を回す もちろん、これはまだ理論上の話であり、「絵に描いた餅」かもしれません。本当にうまくいくかどうかは、実際にやってみなければ分かりません。
つまり、学校全体で「けテぶれ」を回していく必要があるのです。この学校は、チームで子どもたちを見ているという素晴らしい土壌があります。この挑戦に、ぜひ伴走させていただきたいと心から思いました。
学びの道具としての「心マトリクス」 研修では、自分や他者の心の状態を客観的に捉える心マトリクスについてもご紹介しました。
午後の研修では、先生方が早速心マトリクスを使ってご自身の学校を分析し、2学期への展望を話し合われていたと伺いました。このように、けテぶれやQNKS、心マトリクスが、先生方の思考や対話を深める「学びの道具」として活用していただけることを、大変嬉しく思います。
教室の壁を越えて:未来の学校像を語る 研修後、神戸の井上先生とお昼をご一緒した際に、非常に刺激的なアイデアが生まれました。
「けテぶれやQNKSのような、教科や学年を横断する抽象的なスキルを子どもたちに渡すことができれば、もはや教室という物理的な壁は必要ないのではないか?」
これはまだ妄想の段階ですが、例えば3年生から6年生までの120人が一つの大きな空間に集まり、チーム担任の先生方がその中を自由に動き回りながら子どもたちの学びをサポートする、といった光景が目に浮かびます。
井上先生は、かつて200人の生徒が同時に入るプールで、子どもたちが主体的に泳ぎを学ぶ場を作った経験をお持ちだそうで、「それと同じことではないか」と話してくださいました。このような未来の学校像を考えると、ワクワクが止まりません。
Q&A:リスナーから寄せられた「対話」を巡る問い ここからは、リスナーの皆様からいただいたご質問にお答えします。
Q. 学校独自の「対話の形」をどう作るか? 校内研修で「対話の形」を確立しようとされているとのこと、素晴らしい取り組みですね。
私自身の考えとして、対話は「さあ、やりましょう」と始めるものではなく、自然に「生まれるもの」ではないかと捉えています。子どもたちが学びの中で必要性を感じ、自発的に対話を始める状況をいかにデザインするかが重要です。
これは、個別最適な学びと協働的な学びの関係にも似ています。
- 個別最適な学びを深めているうちに、自然と協働的な学び(対話)が生まれる。
- 協働的な学びをしているうちに、自分自身の個別最適な学びが立ち上がってくる。
この2つがシームレスにつながる状態が理想です。
もちろん、「対話の練習」として意図的に場を設定することは有効です。その際は、コミュニケーションのレベル(聞く、リアクションする、分かりやすく話す、問い返すなど)を意識させ、対話の「型」を身につける練習をすると良いでしょう。
Q. 研究授業後の検討会で、どのような話をされていましたか? 私の授業は新しい取り組みが多かったためか、参観された先生方から「あれはどういうことですか?」「なぜ、あのようにするのですか?」といった、学びの場の作り方に関する質問をいただくことがほとんどでした。
その質問に一つひとつ答えていく中で、私自身も授業デザインや教育の仕組みについての認識を深めていく、という対話的な場になっていました。
一般的な検討会で言えば、授業者に授業デザインの意図を聞きながら、その背景にある教育システムや仕組みについて参加者全員で認識を深めていく、という形が自然ではないかと思います。
まとめ 全国の学校を回らせていただくと、教育の現状に課題を感じることもありますが、今回のように非常に前向きなエネルギーに満ちた学校に出会うと、大きな希望とパワーをいただけます。
一つひとつの学校での実践が、日本の教育を変える大きな力になると信じています。これからも、子どもたちの自己学習力を覚醒させるためのヒントをお届けしていきます。