2026年度、葛原学習研究所の二つの柱が動き出す。一つは、オールけテぶれフェスタの全国ツアー化。名古屋一極開催から抜け出し、北海道・東京・名古屋・大阪・九州の5都市を回る形へと転換した。もう一つは、けテぶれサロンPlusを舞台にしたオンラインコミュニティの本格稼働。ラボ・サークル・学年集会の三層構造に、AIとカルテ制度を組み合わせ、教師が継続的に学び続けられる仕組みへと磨き上げられていく。共通するのは一つの方向性——葛原氏が教える場から、実践者が持ち寄り、試し、語り、価値づけ合う場へ、という移行である。
全国ツアーへ。フェスタの転換点
これまでのオールけテぶれフェスタは、全国から参加者が名古屋に集まる形で開催してきた。2026年度、その形が変わる。
「みんな名古屋に集まってね、という形から、もう全国に出向きます、という形に変えます」——この一言が今年の方針転換を象徴している。北海道・東京・名古屋・大阪・九州という5都市を巡る全国ツアーとして、オールけテぶれフェスタ(All Kette Bre Festa)は新たな姿をとる。
この変化は単なる開催地の広がりではない。全国各地で実践が根を下ろしてきたという実感が背景にある。各地で日常的にけテぶれを試している教師が増え、もはや中心から人を呼び集める段階ではなくなった、という判断だ。
さらに注目すべきは、自治体が主催するフェスタも動き始めているということだ。教育委員会が夏の研修のあり方に悩む中、このムーブメントのモデルケースとして機能し得るという手応えが語られている。実際に自治体レベルでのフェスタ開催も具体的に動いており、「自治体の研修のお手本としても、あり方としても、どんどん出せるように磨き上げていって、その辺からも改革進めていけるようになってきましたね」という言葉が示すように、公教育をボトムアップで変えていく拠点としての位置づけが現実味を帯びてきている。
「知る・やってみる・語る」を一日で体験する構造
フェスタの中身も変わった。従来は、解説3本柱+全体発表+ポスター発表という構成で一日が組まれていた。今年からそこに体験型ワークショップが加わる。
「本当に自分で体験して、知る、やってみる——その2つが体験できるというのが、非常にいいところかなと思います」という言葉が示すように、参加者が受け取るだけでなく、自ら動く時間を設けることが今回の設計の核心にある。

ワークショップの具体的な内容として挙げられているのは、漢字けテぶれの始め方、QNKS体験会、心マトリクスのミニ授業など。いずれも、けテぶれ・QNKS・心マトリクスという学びの核心に、初めて出会う参加者でも触れられるよう設計されている。講師を担うのは実践経験のある教師たち自身であり、知識として聞くだけでなく、実際に動かしてみることができるのがこの枠の特徴だ。
「知る・やってみる」とセットで語られたのが「語る」だ。ポスター発表や全体発表で実践者の声を聞き、自分の体験と照らし合わせながら思考が深まる——この流れが一日の中に埋め込まれている。知ることと試すことと語ることが一つの場で起きるとき、参加者の中で何かが動き出す。
葛原氏は「価値づける人」へ
これまでフェスタ前半のワークショップは、葛原氏自身がデザインし、主導してきた。今年からその役割を実践者へと移していく。
「どんどん実践者主体のイベントになっていく」——この変化は、葛原氏が教壇から降りるということではない。役割が変わるのだ。当日の葛原氏の位置は、ポスター発表と全体発表という二種類の発表に対して「価値づけフィードバック」を行う役割として再配置される。

この構造はどこかで見覚えがある。教室でけテぶれが進むとき、最初は教師がすべてを設計し、説明し、指示していた時期から、次第に子どもが自ら計画し、テストし、分析し、練習するようになっていく。教師の仕事は「やらせる」から「認め、価値づける」へと移行する。そのまったく同じ構造が、今、全国の実践者コミュニティにも起きているということだ。
「もう全国で、教室でやっているような子どもたちがだんだん自立していて、できることが増えていって——ということを全国レベルでやっているっていう実感が本当にありますね」という言葉は、この等構造への感慨を率直に語っている。2学期・3学期になると子どもたちが自分でミニ授業を開き始めるような景色が、今、全国の実践者コミュニティの中でも立ち上がってきているのだ。
自治体研修のモデルとして
フェスタが各地で開催されることで、もう一つの可能性が見えてきた。自治体の夏の研修のモデルケースとしての機能だ。
毎年、教育委員会や各自治体は夏の教員研修のあり方に悩んでいる。内容をどう設計するか、参加者の主体性をどう引き出すか、単なる講演で終わらないためにどうするか——こうした問いに、このフェスタのフォーマットは一つの答えを提示している。
実践者が体験型ワークショップを担い、発表し、聴き合い、価値づけのフィードバックをもらう。この流れ自体を、そのまま自治体研修のひな形として採用できるという手応えが語られている。外部講師を呼ぶのではなく、地域の実践者たちが主体となって学び合う研修のあり方——それが、このムーブメントの広がりの中から自然に生まれてきている。
オンライン:ラボ・サークル・学年集会という三層設計
フェスタがオフラインの核なら、けテぶれサロンPlusのDiscordコミュニティはオンラインの核だ。2026年5月中旬から、新たに「ラボ」「サークル」「学年集会」という三つの場が動き始める。
ラボは少人数のクラス制だ。各学年から数人ずつのグループが組まれ、参加者の希望(QNKSをやりたい、けテぶれを深めたいなど)に合わせてグループ編成が行われる。週ごとに学び合いの場が設けられ、経験豊富な「お助け先生」がメンター的に関わる仕組みもある。
サークルは、ラボよりも縛りが緩く非同期で動く場だ。鉄学・学級通信・国語・QNKSなど、テーマ別のカテゴリが用意され、それぞれに関心を持つ教師が投稿し、やりとりする。サークルは希望者が自由に立ち上げられ、週に一度の木曜夜がサークル日として設定されており、同じ関心を持つ人たちが集まりやすい構造が作られている。

学年集会は、同じ学年を担当する先生たちが月に一度、夜9時から集まる場だ。ラボに参加していなくても、けテぶれサロンPlus(DVS+)のDiscordに参加していれば参加できる。月1回という頻度が、継続的な参加のしやすさを担保している。ラボへの毎週参加が難しいという方も、学年集会という入り口がある。
この三層は、参加者の時間的余裕や関与の深さに応じた複数の入り口を提供している。毎週密に動きたい人はラボへ、テーマで繋がりたい人はサークルへ、まず月1回から始めたい人は学年集会へ。参加頻度や関心に合わせて、自分の入り方を選べる設計になっている。
AIとカルテ制度:知見をつなぎ、学びを個別化する
コミュニティの中でやりとりされた知見を、そのまま流れ去らせない仕組みも動き始めている。
「けテぶれいん」と呼ばれるAIは、Discordに書き込まれた実践者の知見を全て回収し、学習する。参加者はこのAIとDMでやりとりでき、コミュニティに積み上がった集合知を個別の問いに引き当てることができる仕組みだ。誰かが別の文脈で試みた実践の記録が、別の誰かの問いへの応答として返ってくる——そうした知の循環がシステムとして設計されている。
さらにカルテ制度も導入される。実践者メンバーがカルテを作成することで、それぞれの実践の文脈や状況に合わせた、パーソナライズされたやりとりが可能になる。「磨きに磨きに磨き上げてきております」という言葉には、単なる情報発信にとどまらず、実践者一人ひとりの学びに寄り添う仕組みをつくるという意志が込められている。
おわりに——改革の波は、外から内へ、内から外へ
オフラインのフェスタがオンラインのコミュニティとつながり、自治体研修がモデルケースを取り込み、AIとカルテが個々の実践を支える——2026年度の動きは、点ではなく面として広がっている。
教室でけテぶれを試している子どもが自立していくように、全国でけテぶれを実践している教師たちが自立していく。その構造が、今、全国規模で動き出している。「オンライン、オフライン、両方からこの改革の波を進めていこう」という言葉は、特定の誰かが教える場を増やすことではなく、実践者同士が学び合い、磨き合い、広げ合える場そのものをつくることに向けられている。
この流れに乗るための入り口は、いくつもある。フェスタに参加することも、サロンのDiscordで動き始めることも、どちらも同じ波の中にある。