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学力を捨てずに自己調整学習へ進む学校づくり

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三重県津市の小学校での校内研修訪問レポートです。この学校は「けテぶれ」名義ではなく、自己調整学習を主軸に授業改善を進めています。5・6年複式学級では単元内自由進度と大計画シートが定着し、三重県の共通学力テストで昨年度比約30ポイントの上昇が確認されました。4年生では初めての大分析と大計画の時間から上限の解放に挑む子どもが現れ、全校算数という学校全体の実践構想も動き始めています。学力と非認知的な学習力を二者択一にしない実践の姿と、事後研での問いを記録します。

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自己調整学習を軸に据えた学校

この学校は、全校で「けテぶれ」という名前のもとに取り組みを統一しているわけではありません。学校全体の主軸は「自己調整学習」の推進であり、その中で葛原の教育論がどの程度響くかを確かめながら進めているという位置づけです。

この前提は、記事全体を読む上でとても大切です。「けテぶれを導入した学校」として紹介するのではなく、「自己調整学習を本気で推進しようとしている学校に、葛原の実践論がどのようにつながっているか」という文脈で読んでいただきたいと思います。

5・6年生の複式学級を担任している先生は、昨年度4・5年の複式学級から持ち上がっています。4月30日の訪問時点ですでに自由進度が定着していたのは、1年間の積み上げがあればこそです。子どもたちが「久しぶり」と迎え入れてくれるような関係性の中で授業を見せてもらいながら、ついつい担任モードに入ってしまうくらい、子どもたちの学びの豊かさが伝わってくる時間でした。

5・6年複式学級で起きていたこと

授業の冒頭に、教師が全体に向けて説明する場面はありませんでした。子どもたちは大計画シートをもとに自分の現在地を確認し、それぞれの学習をすぐに始めます。「計画を立てて、はいじゃあどうぞ」という大サイクルが、すでに日常になっています。

大計画シート
大計画シート

大計画シートが機能している授業では、子どもたちは教科書を一度通読して終わりにしません。1週目でひと通り進めた後、2週目・3週目では「説明できる」「作ってみる」「みんなで作ったプリントで確認する」「学習新聞を作る」といった深める段階へと進んでいました。こうした活動は、学習の「量」だけでなく「質」を子ども自身が設計していく姿です。

単元内自由進度学習において、大計画シートは「現在地の可視化ツール」として機能します。子どもは自分が単元のどこにいるかを常に把握し、次に何をすべきかを自分で判断します。これは、教師が「次はここをやりなさい」と指示する学びとは根本的に異なります。全体指導の場面がゼロからスタートするというのは、それだけ学びのプロセスそのものが子どもの手に渡っているということを意味しています。

学力テスト30ポイント上昇が示すもの

この学級に関して、三重県内の共通学力テストで昨年度比約30ポイントの上昇が確認されています。担任の先生いわく「常識では考えられないぐらい上がった」という結果です。

この数字は単純に「学力が上がった」という話ではありません。葛原が強調するのは、非認知的な学習力と学力成果は二者択一ではないという点です。

学習力分析ABCD
学習力分析ABCD

「非認知能力が大事だから学力は後回しでいい」という発想は、今の主体性重視の学びに向けられる批判と表裏一体です。「活動あって学びなし」—つまり、何かを体験させても結局学力につながらないという批判で終わってしまうとすれば、公教育のボトムアップ改革は前進しないことになります。

葛原が言うのはこういうことです。学力が保障されているのは当然の前提です。その上で、学力を伸ばすプロセスすらも子どもたちが作っていく—それが次の一歩だということです。子どもたちの非認知的な、情動的な深い学習力を育てた結果として、学力にもつながる。その筋道をきちんと示せなければ、学力を脇に置いた実践という誤解が生まれます。この学校の30ポイント上昇は、二者択一ではないことの具体的な証左として受け取ることができます。

4年生での初めての大分析と大計画

5・6年生の隣には、若手の担任が受け持つ4年生のクラスがありました。Voicyを毎日聴いているというこの担任は、出会い頭から実践に向かう姿勢が見られます。

4月30日の時点で、そのクラスはけテぶれを始めてから初めての小テストの時間でした。テストの結果を受けて、子どもたちは大分析を行い、来週の大計画を立てる—という流れです。

けテぶれ大サイクル
けテぶれ大サイクル

驚いたのは、けテぶれを始めたばかりの初回テストで、上限の解放に挑戦している子どもが何人もいたことです。教師の熱が子どもたちに伝わっていることが、このスピード感から見て取れます。けテぶれ通信もすでに20号に迫る勢いとのことで、日常的に実践の記録と価値が学級で共有されている様子が分かります。

大分析と大計画のサイクルは、初めて経験する子どもにとっても意味をつかみやすい構造を持っています。「自分はどこまでできたか」「なぜそうなったか」「では次はどうするか」という問いの立て方が、子どもの学習力を育てる基礎になります。初めての経験でも上限の解放まで挑む子が現れたのは、その問いが子どもにとって自然に動ける形になっていたからではないでしょうか。

全校算数という構想

1・2・3年生についてはまだ探り探りの段階ですが、学校全体の目標として「全校算数」という構想が動き始めています。

これは、大きな多目的ホールに全校児童が集まり、1年生から6年生までが同じ空間でそれぞれの算数に取り組むというものです。学年ごとに分かれた一斉授業とは異なり、それぞれが自分の現在地から学びを進めながら、学年を超えて互いの学びが混ざり合います。個人の学びが学校全体の協働的な学びへと広がっていく実践設計です。

自由進度学習の発展形として、学校という単位でどのような学びの場を作れるのか。全校算数はその具体的な試みとして位置づけられます。自己選択・自己決定の学びを個々の教室の中だけで完結させるのではなく、学校全体の空間と文化として立ち上げようとしている。この構想の豊かさは、実践を訪れてみなければなかなか実感しづらいものがあります。

事後研で問われたこと

授業参観の後には事後研が行われました。その中でまず考えてもらったのは、「なぜこの学びに価値があるのか」という問いです。

一斉授業では到達しにくい場面として何が考えられるか。この実践を通じて、子どもたちの中に何が育まれているのか。こうした問いに対して先生方が自分の言葉で答えられることは、実践を続ける根拠になります。

ただし、事後研はそこで終わりではありませんでした。価値を確認した後、懸念や難しさについても考えを向けました。主体的な学びの場を作るとき、何が起きるか。何がうまくいかないか。どんな子どもが困るか。プラスとマイナスの両面を出した上で、「では実際のクラスの子どもたちにどう投げかけるか」へと矢印を向けていく—この流れが、全校算数に向けての実践設計へとつながっていきました。

価値だけを語って終わる研修は、実践の準備にはなりません。懸念を出し、その上で子どもへの関わり方を考えることが、現場の教師が動ける起点になります。6年生のミクロ・メソ・マクロの一貫性が見られる学級を全員で観察した後に、その価値と懸念を両面から語り合えたことは、この事後研をとりわけ濃いものにしていました。

おわりに

三重県津市の小学校での訪問を通じて見えてきたのは、学力と学習力を対立させない実践の姿でした。

自己調整学習は、学力を脇に置く実践ではありません。学力保障を土台にしながら、学力を伸ばすプロセスそのものを子どもたちが設計していく—それが公教育における次の一歩であるという葛原の主張は、大計画シートに向かう子どもたちの姿と、30ポイント上昇という数字によって、具体的な形を帯びてきます。

この学校では、校長先生の許可のもと、特定の研究授業日でなくても授業見学が可能とのことです。見学の機会については、けテぶれサロンプラスにて学校名・参加手続きの詳細をご案内する予定です。実践の具体に触れ、現場の先生方と語り合う機会として、ぜひご活用ください。

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