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「けテぶれクエスト」で1年生の主体性に火をつける——外発的動機付けから自己学習力へ

外側上限の解放協働的な学び

大阪の小学校教諭・髙橋恭平先生(ちゃんひご先生)が1年生を対象に実践した「けテぶれクエスト」を紹介します。漢字や計算の習得にゲーム要素を組み合わせ、外発的動機付けから始めながら、ボス制度を通じて協働と質的深化を促す仕組みです。独自に考案した「二つの思考回数(量・質)」を可視化することで、子どもたちの主体性と自己調整力を育てていきます。

自己紹介と発表の目的

髙橋恭平先生(ちゃんひご先生)は、大阪の小学校に勤務する教員歴7年目・担任歴6年目の先生です。けテぶれや心マトリクスの存在は5年ほど前から知っていましたが、本格的に取り組み始めたのはここ3年ほどとのことです。

学級経営において「自己調整」を最も大切にしており、Instagramやnoteでのアウトプットとともに、自身の実践を継続的に発信しています。趣味はポケモンと消しゴムはんこ作りで、週に2〜3個のペースで制作しているほどのこだわりぶりです。

今回の発表の目的は次の3つです。

  • 自分の考えをアウトプットすること
  • 皆さんからのフィードバックを通じて実践を強化すること
  • 他の先生方のヒントになること

クラスの課題と目標設定

前年度の反省から生まれた問い

前年度に2年生の担任をしていた髙橋先生は、九九を「全員完璧」の状態で3年生に送り出したにもかかわらず、3年生になって練習機会が減ると忘れてしまう子が多いという現実に直面しました。

「練習しなければ忘れてしまうのは仕方ないことかもしれない。でも、6年目なのに結果を残せていないということには変わりない。」

この経験から、単に内容を習得させるだけでなく、「できない・分からない」に出会った時に自分で学び直せる自己学習力を育てることが必要だという問いが生まれました。

1年生の目標設定

今の1年生を2年生に上げるにあたって、髙橋先生は以下の目標を設定しました。

  • 文字:ひらがな・カタカナ・漢字の読み書きができること
  • 計算:足し算・引き算がすらすらできること
  • ルールを守りながら、怪我なく平和に過ごせること

けテぶれクエストの仕組み

モンスター討伐ゲームの構造

この目標達成のために髙橋先生が考案したのが「けテぶれクエスト」です。クラスに漢字や計算の「モンスター」が出現し、子どもたちがそれを倒していくというゲームの仕組みです。

  • 宿題や授業中の練習などで星を10個集めるとモンスターを倒せる
  • モンスターを倒すと「お宝くじ」からシールをゲットできる

シールが欲しいという気持ち、つまり外発的動機付けから自然に学習への関心を引き出すことを意図した設計です。

  • 宿題や追加プリントへの取り組み
  • 授業中の隙間練習
  • 日記での思考の広がり(考えを広げる・書いてみる・振り返る)
  • 話し合い活動での傾聴(星1個)や質問(星2個)

例えば「友達の話を聞いて、できる子は質問もしてみよう」という単元では、最初は聞くので精一杯だった子が、「星をたくさんほしい」という気持ちから質問にチャレンジする姿が見られました。星の仕組みが、子どもたちの自然な挑戦を引き出しています。

ボス制度——質の深化と協働の促進

モンスター討伐(量)だけでは、深めていく質の部分が身につきにくいと感じた髙橋先生は、クラス全体で取り組む「ボス制度」を追加しました。

ボスの設定 「魔の6王」「魔の10王」——学級経営上、6月・10月頃に雰囲気が崩れやすい時期をキャラクター化したボスです。HP 2700(30人学級で1人90点を取るとボスを倒せる計算)として設定されています。

多様な子が活躍できるダメージ設計

| アクション | ダメージ | |---|---| | テスト直しをする | 5ダメージ | | 100点を取る | 10ダメージ追加 | | 応用問題(例:別の言葉での漢字使用)ができる | さらに1ダメージ追加 |

この仕組みにより、「俺、算数得意やから任せて!」「私、算数苦手かも……」という素直な言葉が子どもたちから飛び交うようになりました。自分の弱点を素直に言えること、互いに頼り合える関係が自然に生まれてきたのです。

上限の解放(どんどん進める子はさらに力を伸ばせる)と、協働してみんなで賢くなろうという意識の両立を実現した制度です。

必殺技けテぶれ——授業時間でのけテぶれ実践

ボスを倒すための手段として「必殺技けテぶれ」を子どもたちに渡し、週に1時間、授業時間内でけテぶれを実践する時間を設けています。

時間の使い方 1. 最初の10分:算数や国語のテスト実施 2. テスト後:丸つけ+自分の弱点(ボスの弱点)を確認 3. 残りの時間:弱点克服のための練習

計画・分析の負荷を下げた工夫

本来のけテぶれでは計画をノートに書かせる場面もありますが、一気にたくさんのことに取り組むと1年生はキャパオーバーになりやすいため、今回は以下のように負荷を下げています。

  • 計画は「どのレベルを目指すか丸をつけるだけ」
  • 分析は頭の中で完結(書かせない)
  • その分、練習時間を最大限確保する

「ボスの弱点」という言葉の力

「間違えた=ボスの弱点発見!それができるようになればもっとダメージが与えられる!」という構造が、間違いに対する子どもたちの姿勢を変えました。

従来のけテぶれの伝え方では「間違いが見つかった=自分の弱点だから克服しよう」という、心の内側を動かすアプローチをしてきました。一方このシステムは、ボスという「外側の敵」にダメージを与えるための練習という外側のサイクルを回す仕組みです。1年生でも間違いを恐れずに立ち向かえる環境ができたことを、髙橋先生は実感しています。実際に「算数のプリントやるわ!」という子どもの声が生まれました。

二つの思考回数——主体性を育む構造

髙橋先生は、子どもたちが主体的に動くようになるためには「成長感」が必要であり、その成長感を生むためには「二つの思考回数」が重要だという仮説を立てています。「思考回数」は髙橋先生が独自に作った造語です。

| | 種類 | 内容 | 対応する仕組み | |---|---|---|---| | 上の思考回数 | 量 | 繰り返しによる習得。漢字を何度も書く、計算カードで唱えるなど | モンスター討伐(けテぶれクエスト) | | 下の思考回数 | 質 | 考えを反芻し、深めていく深化 | ボス制度(協働・応用) |

この二つを可視化することで、子どもたちは「できた・分かった」という成長感を得て、さらに主体的に学ぼうとするエンジンが生まれると考えています。

けテぶれクエストは「量の思考回数」を、ボス制度は「質の思考回数」を回す仕組みであり、この両輪があるからこそ子どもたちの主体性が育まれていく——これが今回の実践の核心です。

生活面の取り組み——平和学習とクラス会議

平和学習の継続と強化

生活面では「クラスの平和」を以下のカテゴリで可視化し、週2回の帰りの会で振り返りを行っています。

  • 赤:遊びの平和
  • 青:勉強の平和
  • 緑:安全の平和
  • 黄色:給食の平和
  • 紫:ルールの平和

前回の発表を受けて葛原先生からアドバイスをいただき、すでにできている「遊び・勉強・給食の平和」を「合格」とし、安全とルールの平和に絞って重点強化しました。

量と質の両面からのアプローチ

量(振り返りの回数を増やす)

毎時間の授業始めに「さっきの休み時間、怪我なく過ごせましたか?」「時間を見て座れましたか?」など、グーチョキパーで振り返る機会を意図的に増やしました。シンプルに回数を増やすことで、子どもたちの中で「そういえばルール、もっと守らなきゃ」という意識が高まっています。

質(クラス会議の導入)

ルールを守れなかった場面が出た時には、クラス会議形式で話し合う時間を設けるようにしました。アドラー心理学の視点と自己調整の考え方を取り入れたこの取り組みにより、「ルールを守りたい」「廊下を歩いて過ごしたい」という内発的な気持ちを持つ子が増えました。

クラス会議は今後も、心マトリクスと並ぶ学級経営の柱として取り入れていく予定です。

今後の展望

けテぶれクエストの結果を出して広める

「ようやく自分の中でけテぶれが一つの取り組みとしてまとまってきた」と語る髙橋先生。今後はこの実践を調整しながら3月末に結果を発表し、自信を持って多くの人に広めていきたいという目標を持っています。

葛原先生のVoicyやTwitterで語られる「公教育のボトムアップ改革」という言葉に共感し、「一人の現場教師が結果を出してけテぶれ実践を紹介することも、ボトムアップの一つになる」という意識が生まれています。

アウトプットの継続と本の出版

  • Instagramで今年度は毎日1本投稿を継続
  • noteで自己調整学習に関する記事を連続投稿
  • 将来的には自分の本を出版したい

発表の最後をドラえもんのセリフ「もう楽しみでワクワクしてんの、僕」で締めくくった髙橋先生。冬休みが明けて実践が始まり、子どもたちが楽しそうに取り組む姿に、残り40日ほどへのワクワク感を語ってくれました。