けテぶれサロンプラス3学期の全体発表会では、国語・体育・自由進度学習の3ラボが実践報告を行った。問いの質が子どもの思考の入り口を決めること、心理的安全性が体育の深い学びを支えること、自由進度実践では「手放す階段」の設計と小さな変化への気づきが鍵になることが、それぞれの失敗と変容を通じて明らかにされた。
国語ラボ:「なぜ」ではなく「何を」から始める問いかけの設計
実践の背景
ペンギン先生(福岡県・当時5年担任)は「国語指導への苦手意識を持ったまま子どもに教えることへの危機感」から国語ラボに参加しました。ラボでの学びを元に、5年生最後の物語単元「大造じいさんとがん」の読み取り指導に取り組みました。
最初の失敗:「なぜ」という高レベルの問い
単元では表を活用して大造じいさんの行動・登場人物の行動・気持ちの変化を読み取った後、「なぜ大造じいさんは銃を下ろしたのだろうか」という問いを投げかけました。
結果は次の通りでした。
- クラス全体34名のうち、すぐに取り組めた児童:13名
- 行動と気持ちの両方を書けた児童:わずか12名
ラボでの振り返りで、失敗の原因として2点が挙がりました。
- 問いのレベルが高すぎた(「なぜ」より「何を」「どこを」の方が入りやすい)
- 気持ちを表す言葉の蓄積が子どもたちに不十分だった
指導の修正と変容
翌年度クラスの1時間を使い、問いを「何を思ったのか」に変更し、気持ちの言語化が苦手な子どもには感情のラベリングを行いながら進めました。
結果として、すぐに取り組めた児童が29名に増加しました。「考えていなかったわけではなく、自分の問い方が問題だった」とペンギン先生は振り返ります。その後の交流では、子どもたちが自分の言葉で語り合う姿が見られました。
学びとしての「なぜ」
「なぜ」という問いそのものを捨てるわけではありません。ラボでの議論を通じて、「まず『何を』から始め、子どもが考えの土台を固めてから、後に『なぜ』へ向かわせる」という段階的な設計の重要性が確認されました。次年度以降も教材研究と問いの見直しを継続していくと結論付けました。
体育ラボ:心理的安全性を土台にしたポートボール実践
クラスの実態と嬉しい変容
濵﨑航奨先生(4・5年持ち上がり担任)のクラスは温かい雰囲気を持つ一方、体育の習熟度がバラバラで不登校傾向の児童が3名いました。1学期の学校アンケートでは「学校が楽しくない」「なぜ学校に行かないといけないのか」と書く児童もいたと言います。
発表の冒頭で紹介されたのが、キャリアパスポートに「心マトリクスを家でも使って自分の気持ちをコントロールできるようになった」と書いた児童の変容でした。学校の文化が家庭にまで浸透していた事実に、大きな手応えを感じたと語ります。
単元設計:安全安心を土台に置く
全8時間のポートボール単元を次のように構成しました。
| 時間 | 目標 | |---|---| | 1〜3時間目 | 安全安心の土台作り | | 4〜6時間目 | 攻防を楽しむ | | 7時間目 | 記録動画分析・作戦立案(→楽しさのレベルダウンが発生) | | 8時間目 | 楽しさの爆発 |
コートには車椅子の児童のためのA3ゾーンを設け、全員が参加・挑戦できる環境を意識しました。また、初得点者には5点を付与するファーストポイントボーナス制を導入し、積極的な参加を促しました。
授業の開始時には毎回、心マトリクスを用いて教師も子どもも現在地を確認することをスタートラインとしました。
単元中盤の変容
- 消極的だった児童が「もっとゴールを決めるようになりたい」と前向きな振り返りを書いた
- 車椅子の児童が「みんなと一緒に対戦できるのが楽しい」と記述した
- 生活けテぶれでポートボールを分析し、翌日チームメイトにアドバイスする児童が現れた
「楽しさのレベルダウン」の反省
7時間目に、記録動画を分析して作戦を立案するよう促したことで、次のことが起きました。
- 作戦通りに行かないイライラが生まれた
- 作戦についていけない子どもの不安感が増した
- 体育が苦手な子どもは状況把握・思考・行動を同時に求められてキャパを超えた
事前にラボメンバーから「こういうことが起きるよ」と助言を受けていたにもかかわらず、試みてしまったと濵﨑先生は率直に振り返りました。
8時間目の爆発的な楽しさと本当の安全安心
7時間目の振り返りで「楽しみたい」という声が多く上がったことを受け、心理的・身体的な安全安心をクラス全体で再確認してから8時間目に臨みました。結果として「楽しいがめちゃくちゃ爆発」する時間になり、初めてシュート・得点・パスを通すことができた児童が続出しました。
この実践全体を通じて、濵﨑先生が到達した問いは「本当の安全安心とは何か」です。
> ドロドロ・モヤモヤ・ダラダラも含めて、全ての感情を正直に言えること。そしてそれをちゃんと受け止められること。
「けテぶれサロンには確かな安全安心がある」という言葉で発表を締めくくりました。
自由進度学習ラボ:失敗と後悔からの一歩
ラボの多様な実践
Tetsuma Itoh先生が報告した自由進度学習ラボ2には、様々な実践が集まっていました。
- QNKSを用いた単元序盤の一斉指導を経て単元内自由進度を実践する先生
- 生活けテぶれを日単位・週単位で運用する先生
- 修学旅行や校外学習で班目標を立てる先生
- 語彙の細分化を児童と一緒に行う先生
自身の実践:大計画シートと単元内自由進度
Tetsuma先生は主に算数・理科で大計画シートを使い、単元を貫く問いと進行表を設けながら授業を進めました。当初は単元内自由進度を目指していましたが、実態に合わせて「1時間の中で自分のペースで問題量・進め方を決める」形に修正しました。
国語説明文の単元では、Canvaを使った一斉導入で単元のゴールを明示し、語彙確認のファイル共有(1人1語の分担)、ICTを使った読み取り表整理、班活動での共有プレゼンテーション作成を組み合わせた実践を行いました。
失敗の振り返り
1. 圧が高まりすぎた
「校内での雰囲気が盛り上がっていない中で自分だけ焦っていた」という自覚があります。子どもへの期待先行が圧になり、子どもが自信を失い、自分もさらに焦るという悪循環が生まれました。
2. 手放す階段のイメージがなかった
ゴールの姿は見えていても、短期・中期目標が不明確でした。先に自由進度を実践していたラボメンバーから「最初はノートの書き方を型通りに教えて、そこからだんだん手放していく」というプロセスを教わり、その段階設計がなかったことを反省しました。
3. 小さな変化を見逃していた
うまくいっていないと感じていたのは、「うまくいっていないのではなく、自分が見逃していただけかもしれない」という気づきがありました。内面的な変化は目に見えにくく、価値づけされなければスルーされてしまいます。
4. 続かないことはしない
校内公開授業で「苦手な子への指導が不十分」と指摘を受け、スライドで詳細に説明する指導を試みましたが、自分の話す時間が長くなりすぎ、全教科・全単元での継続が困難と判断してすぐに取り下げました。「自分の目指す指導の方向性と違う」という判断からの方向転換です。
児童アンケートからの学び
「けテぶれがなくても勉強できていた」という子どもへ
知識・技能が高い一方で学びに向かう姿勢に課題がある児童が「けテぶれなしで大丈夫だった」と回答しました。Tetsuma先生はこれを「目的の共有ができていなかった」証左として深く反省します。方法を押し付けるのではなく、「あなたのやり方でできているこの部分はいいよね。ではこっちはどう?」という丁寧な対話が必要だったと述べました。
「レが面倒くさい」という子どもへ
「練習(レ)が面倒くさいから来年はやりたくない」と書いた児童ですが、実際には漢字が書けるようになっていました。Tetsuma先生は「ノートにレの欄がなくても、丸つけ後にドリルを目で追ったり指書きしたりしていたかもしれない」と推察します。「あなたは実はレをしているんだよ」と伝えることで、練習への認識を変えられたかもしれないという考察です。
大分析での同じ記述の繰り返しへのフィードバック
毎回テストで同じような失敗を書き続ける児童に対して、どんなフィードバックをするかで子どもの変化は大きく変わります。「頭で分かっていても実行するのは難しい」という現実に共感しながら、前向きな期待感を持って関わることの重要性を強調しました。
> 大人のラボの中で分かっていることを教室で全部できているか。大人でもそうなのだという事実を、子どもの大分析に返せたら、また違ったかもしれない。
思っていたよりうまくいっていた
終了式前日の最後の算数の時間、割り算ができなかった子が「ふと割り算ができた」という瞬間が訪れました。毎回「割り算ができないから」と分析し続けてきた子が、最後の最後で気づきに至った事例です。「分析し続けたからこそ最後に出てきた」と Tetsuma先生は捉えます。
まとめ:ラボの熱を教室に持ち込む時の注意
ラボでの熱量をそのまま教室に輸入すると火力が高くなりすぎます。「1人ひとりの進み方や伝わり方を尊重するフード(雰囲気)がなければ、子どもは安心してやってみようという勇気が湧いてこない」という結論に至りました。
そして最後に、挑戦したこと自体の意義を語りました。
> 正解は全然ない。でも自分が納得したところからまず始めてみる、やってみるということが1番大事。
発表会全体の反響と今後
3つのラボに共通して見えてきたのは、「土台の丁寧さ」という視点です。問いかけの設計・心理的安全性の確保・手放す段階の可視化、いずれも「子どもが自分で動き出す前に整えておくべきもの」に向き合った実践でした。
けテぶれサロンプラスは令和8年度に向けて、ラボ・サークル活動・自主企画・学年集会・ゼミという5本柱で再編される予定です。4月1日には1学期ラボのアンケートが出される予定とのことです。