全コンテンツの無料開放を経て、葛原学習研究所の重心は「情報を届ける」から「学びの場を育てる」へと移行した。2026年度のけテぶれサロンプラスは、ラボ・学年集会・サークル・自主企画・ゼミという5本柱と、サロン内の知識を蓄積するAI機能を組み合わせ、初心者から熟練実践者まで、どの現在地からも一歩進められるコミュニティを目指す。
全コンテンツ無料開放の先にあるもの
「知識は無料で」という判断は、かなり背水の陣に近い挑戦でもある。それでも、年度のはじまりに、全校・学年・クラスで取り組みたいと考えている教師を支えたい——ただそれだけだという。「やっぱり教育が変わっていくということしか僕は望んでいない、それしか狙っていない」。この言葉にこそ、葛原学習研究所のミッションが凝縮されている。
公教育をボトムアップで変えていくためには、情報を囲い込んでいては意味がない。必要な知識が手に届く状態にしてこそ、現場の教師が動き始める。その先に「売るべきものとして残るのは学びの場そのものだ」という構想が、2026年度のサロンプラスの設計思想となっている。
2026年度の軸:情報販売から学習空間へ
葛原は今年度の方向を明快に語る。「情報で売るというよりかは、学びの場として学習空間を育てていく」。この言葉は、けテぶれサロンプラスの性格そのものを定義する。
サロンプラスはノウハウを受け取るサブスクリプションではない。実践を持ち寄り、悩みを相談し、仲間とつながり、自分の教育観を深めていく場だ。研修のデザインとは、伝達の構造ではなく、実践者が互いの経験から学び合う空間を設計することを指す。そのために用意された5本柱が、今年度の全貌となる。
5本柱の全貌
この5本柱は、参加にかかる負荷と活動の深まりがそれぞれ異なる複数の入口として設計されている。難易度の高い低いではなく、ペースと関わり方の違いによって選べる導線が複数ある、ということだ。ラボが継続的な少人数の場であれば、学年集会は月1回、サークルはさらに負荷が低い非同期参加、自主企画はサークルから育つ広がりの形、そしてゼミはもっとも深く、もっとも濃い場として位置づけられる。
ラボ:少人数で日常の実践を継続的に共有する
ラボは昨年度から始まった少人数グループの活動を、今年度さらにブラッシュアップしたものだ。3〜4人単位で学年別にグループを組み、専用のテキストチャンネルと音声会議室が割り当てられる。週1回のミーティングを続けるグループもあれば、不定期で集まるグループもあり、ペースは参加者が自分たちで決められる。
グループでは「今どんな状況か」「こういう時どうすればいいか」といった日常の実践相談が中心になる。チャンネルには起動期の悩みや週・隔週の実践報告が蓄積されていく。少人数だからこそ、互いの文脈を深く知りながら話し合える点がラボの強みだ。一学期間を同じメンバーで完走するという設計が、継続的な関係性と信頼を育てる。
お助け先生制度:サロン内の経験を循環させる
ラボと連動して今年度から新設されたのがお助け先生制度だ。サロンプラスの中には、QNKSや特定の実践に熟達した教師が数多くいる。その方々が「お助け先生」として登録し、ニーズのあるグループからの呼び出しに応じる仕組みだ。
たとえば「QNKSをどう授業に取り入れればよいかわからない」というニーズが出た時、その内容を教えられる先生とマッチングされ、ラボのグループへ単発でレクチャーに入る。ラボの中だけで完結しないのがこの制度の核心であり、サロンプラスの実践者の経験が、必要な場所へと循環していく構造が生まれる。
学年集会:月1回の横断的な交流
ラボが定期的なグループ活動であるのに対し、学年集会は月1回、同じ学年を担当する教師が学年ごとに集まる交流の場だ。1年生から6年生、中学校、特別支援学級のそれぞれに学年主任役となる参加者を立て、第4土曜日の夜にDiscordのチャンネルで集まる。
参加にあたってラボへの登録は必須ではない。 DiscordのサーバーにさえいればOKで、月に一度だけ顔を出すという関わり方も可能だ。ブレイクアウトセッションで小グループに分かれるなど、集まり方の柔軟性も高い。ラボが学年別の小グループ単位で動いているのに対し、学年集会はそのグループを横断して同学年の実践者が出会う場として設計されている。
サークル:テーマ別の非同期参加
サークルは申し込み不要で参加できる、テーマ別の非同期活動だ。AI活用サークル、全校実践サークル、毎日投稿振り返りサークル、哲学サークル、国語サークルなど、複数のテーマがすでに動いている。参加は基本的にスレッドへの投稿で、指導案ができたら検討サークルに投げる、AIの実践事例があれば活用サークルに共有するといった使い方が想定されている。
毎週木曜日はサークル活動日として設定されており、ラボのミーティングが入らない時間帯が確保されている。サークルごとに音声対話セッションを開いてもよいし、耳だけ参加で様子を聞くだけでもよい。コミュニティマネージャーが緩やかに活動を促す中で、不定期ながらも生きたやり取りが積み重なっていく。
自主企画:サークルから育つ、広がりの形
サークルが盛り上がると、それが「自主企画」として独立した活動に育つことがある。たとえば毎週木曜日に有志で開かれている「問いカフェ」はその一例だ。日々の実践の中で生まれた問いを少人数で深く話し合うこの企画は、Discord内の限定活動として始まり、安定してきたらけテぶれの全国LINEグループにも参加募集をかけ、徐々に広がっていった。

自主企画は、サロン内から社外へと「熱の広げ方」を体現する実践の形だ。 活動が内側で安定したら外へ開く、参加者が増えたらさらに専用チャンネルを立ち上げてメンバーを募るという流れで、活動の規模と深さが段階的に育っていく。ハードルを一段ずつ上げながら参加者を引き込んでいくこの設計は、実践者がみずから「場を育てる側」になっていくプロセスそのものだ。こうした自主企画の萌芽は過去にも実際に大きな取り組みへと育った経緯があり、そこから始まって今も継続・進化している事例もある。
ゼミ:自己省察と実践論文の深みへ
5本柱の中でもっとも深く、もっとも負荷が高いのがゼミだ。サロンプラスの中にはすでに自分のスタイルと実績を持つ実践者が複数おり、それぞれがゼミを立ち上げて参加者を少人数で受け入れている。初心者向けのゼミ、独自の実践スタイルを持つ熟練者が主宰するゼミなど、目的と色合いの異なるゼミが現在3つ立ち上がっている。
葛原自身のゼミは、さらに踏み込んだ方向性を持つ。実践論文として仕上げること、または自分の実践を凝縮した一枚の図として構成することを到達点に据え、自己省察的なプロセスを丁寧に辿る場だ。「自分の内側を全部ひっくり返すようなゼミにする」という言葉は、ゼミを単なる技術習得の場ではなく、自分の教育観・実践の在り方そのものを問い直す場として位置づけていることを示している。論文の書き方から図化のサポートまで含めて伴うことで、実践者一人ひとりの学びの探究を深く支えることをねらいとしている。
AI機能:書き込むほど個人の状況を理解する
5本柱に加え、サロンプラスにはAI機能が実装されつつある。仕組みの核心は、書き込めば書き込むほど、AIが個人の状況を深く理解していくという設計だ。各自のアカウントに紐付いたかたちで投稿が蓄積され、サロン内のナレッジ全体を学習したサロン専用のAIに状況に応じた相談や問い合わせができるようになる。
さらに「この人につながるとよいのでは」というマッチング機能も随時実装を進めている。現時点でも、サロンの情報を全件読み込ませた「経験の蓄積としてのAI」にいつでも問い合わせることが可能な状態になっている。
ただし、この機能はまだ開発途上であり、随時アップグレードしていく構想段階のものだ。投稿と対話の積み重ねが個人の実践をパーソナライズされた形で支える補助線になっていくという方向性として受け取ってほしい。
どの現在地からも一歩進めるコミュニティへ
最後に葛原は、こんな誤解を丁寧に解いている。サロンプラスは、濃い実践者だけが集まる場ではない。
「初心者歓迎の状況もどんどん作っていきたい」——その言葉通り、入りたての実践者が安心して学べる環境を意識的に設計している。たとえばサークルに「ベテラン書き込み禁止」のような工夫を加えることも考えられるという。
ラボ、学年集会、サークル、自主企画、ゼミ。参加の仕方は一つではなく、深さも頻度も自分で選べる。定期で少人数と語り合いたいならラボ、月に一度だけ顔を出したいなら学年集会、非同期でゆるやかにつながりたいならサークル、より深く自分の実践を掘り下げたいならゼミと、それぞれの現在地に合った入口がある。
どの現在地からも、一歩進めるコミュニティ。 情報を受け取るだけの場から、実践者同士が経験を持ち寄り、互いの学びを育て合う学習空間へ——2026年度のけテぶれサロンプラスは、その方向に向かって動き始めている。